2022年5月 句会報 | sanmokukukai2020のブログ

sanmokukukai2020のブログ

ブログの説明を入力します。

   2022年5月三木句会報

 

      振り返るひとときのあり初夏の朝            加藤光樹 

      母の手の筆圧強し青胡桃                  太田酔子  

       緑陰に補聴器外す風に恋                  

       身の澱を流す卯の花くだしかな               

       青墨のくずし字の撥ね花は葉に                

      朝啼けば朝の声して四十雀                    関本朗子    

       産声の響く朝や若葉風                   

       手鏡にうつる白髪や夏隣                   

      生命線きれぎれ続き青葉雨               田中 梓 

       白牡丹涙を溜めて絹の雨                  

       薄衣纏へば今日も生き抜かん                

      里帰りにわか二世帯茶摘唄                    白樫ゆきえ 

      揚雲雀帰りの道を忘れたり               関根瞬泡   

       晴天の五月の空に落とし穴                   

      地より出で筍この世を突き刺せり            草野きょう子 

       花曇り老いて楽しや動物園                       

      手水舎にふうはり着地夏の蝶              佐藤花子 

      本箱は父の手仕事こどもの日              大塚楓子 

      タイトル戦詰めの一手の夏衣              さとう桐子 

       カーネーション母の齢に近づきて                

      開演を告げる調弦紅い薔薇                    樹 水流    

      糠床にアスパラ埋めた手母の匂い            米澤 然  

      庭仕事行く手を阻む蜥蜴かな              藤井 素 

      さようならと手話で交換風光る             神宮前小梅 

      風薫る二年ぶりねとクラス会                原宿美都子   

      薫風や祈り捧げる花手水                  佐々木 梢   

      新緑に霏々としてふる涙雨                   小泉真樹   

      手を拡げ胸一ぱいに吸ふ青田風            幸野穂高   

      藤に雨沖縄復帰50年                     山崎哲男     

      青蛙姿なくとも音近く                       吉村未響    

      おたまじゃくし俺もお前も似てるなあ         國分三徳  

      風鈴の告白風の聞き上手                                       飛鳥遊子    

       生と死をつなぐ土偶の目の涼し            

       たわいない言葉に深手朴散華              

       噴水の穂先つんつん詩が生れ                 

 

 

    複数の高点句をあげている方々が並びました。5点句以上が23句もあるので、全てに

   言及することができそうにありません。このような状況が続くと6点句までと底上げしな

   ければならないかもしれませんね。これは嬉しい底上げです。

    今月の2桁得点は遊子がいただきました。「風鈴の告白風の聞き上手」6名もの特選を

   いただいた18点句でした。コテコテの擬人法でちょっと後ろめたいですが……。10点句

   「生と死をつなぐ土偶の目の涼し」、8点句「たわいない言葉に深手朴散華」、5点句「噴

   水の穂先つんつん詩が生れ」もありました。

    酔子さんも4句全てが高点句でした。8点の「母の手の筆圧強し青胡桃」、7点の「緑

   陰に補聴器外す風に恋」、6点の「身の澱を流す卯の花くだしかな」、5点の「青墨のく

   ずし字の撥ね花は葉に」。いずれも適切な季語が選ばれ、美しい情景が目に浮かぶ句ばか

   りです。

    毎回、日常のちょっとした気づきを上手に詠まれている朗子さんも「朝啼けば朝の声し

   て四十雀」8点、「産声の響く朝や若葉風」5点、「手鏡にうつる白髪や夏隣」5点と、

   女性らしい視点が生かされた句が並びました。梓さんも「生命線きれぎれ続き青葉雨」7

   点、「白牡丹涙を溜めて絹の雨」5点、「薄衣纏へば今日も生き抜かん」5点と、独自の

   境地をあますところなく詠み上げられました。体力回復とともに明るい句が自ずと生まれ

   てくることを期待したいです。 

    ゆきえさんの7点句は「里帰りにわか二世帯茶摘唄」。海外在住の娘さん家族が滞在し

   ていらしたとか。茶摘唄の季語にはちょっと虚を突かれました。瞬泡さんの6点句「揚雲

   雀帰りの道を忘れたり」は、諧謔味が漂います。物忘れ激しき今日この頃、鳥にも物忘れ

   があるのか、と……。三徳さんの特選です。瞬泡さんには5点句の「晴天の五月の空に落

   とし穴」もありました。これもまた深く意味を探りたくなる句で、俳句ならではの読み手

   の裁量に任された読みが可能です。芭蕉の言「いいおほせて何かある」が浮かびます。こ

   の伝で申せば、私たちの句は、言いおおせ過ぎているかもしれません。

    きょう子さんの6点句と5点句「地より出で筍この世を突き刺せり」、「花曇り老いて

   楽しや動物園」。最近さまざまな句材、スタイルに挑戦していらっしゃるきょう子さんで

   す。試しては再考することでしか、何かを掴む方法はなさそうです。美しい情景を詠まれ

   た花子さんの「手水舎にふうはり着地夏の蝶」は5点句でした。

    6、5点を取られた桐子さんの「タイトル戦詰めの一手の夏衣」と「カーネーション母

   の齢に近づきて」。タイトル戦の句は無駄な動詞や助詞がなく、しかも明確に何を読んで

   いるのかを示していて、俳句のお手本のような句だと思います。こうした句が作れるよう

   になりたいものです。

    今回86句が並びましたが、口語でつらつらと情景を描写する句が目立ちました。5・

   7・5で説明すればいいというのではなく、口語にするにはそれなりの意図があるはず。

   渡辺白泉の「戦争が廊下の奥に立ってゐた」は無季の口語俳句としてよく引き合いに出

   されます。薄暗い廊下の奥に、避けがたい現実味をもって戦争が近づいてくる、その不気

   味な感じを、平易に口語表現したためいっそうの効果を上げたと言われる好例です。

   <続きを読む>

 

 

 

                                                                          photo: y. asuka

                                                  青梅の尻うつくしくそろひけり    室生犀星