2022年2月 句会報 | sanmokukukai2020のブログ

sanmokukukai2020のブログ

ブログの説明を入力します。

   2022年2月三木句会報

 

 

      日足伸び窓の南が広くなる                             加藤光樹 

      毛糸編む心配事も玉編みに               樹 水流 

       春光やショパンの黒鍵躍りだす                

       枝を切る鋏の音の冴返る                  

      晩年と云う楽しみや名残雪               神宮前小梅 

      去り際の握手の記憶春の星               関本朗子   

       白黒をつけぬ生き方竃猫                  

       車椅子押す足元にクロッカス               

      啓蟄だ出てこい不要不急たち              國分三徳  

      運命線引き直せるや寒北斗               田中 梓 

       朗らかに囀るやうにチューリップ               

      タンポポに不戦託せし人ありて                大塚楓子 

      陽炎の中を夢二の黒き猫                さとう桐子 

       クレパスの赤短くてチューリップ               

      雪の中土の香抱いて蕗の薹               佐々木 梢 

      黒部川を跨いで座る冬将軍               関根瞬泡 

      黒支度衣桁にかける二月かな              藤井 素 

      カーテンを洗ふ春光の誕生               太田酔子  

      見つめらる無数の黒目白子干              佐藤花子  

      雪解けのひときわ黒き庭の土              白樫ゆきえ 

      冴え返る銀座ヒールで闊歩する             小泉真樹  

      青空についと降りだす雪静か                原宿美都子   

      黒猫に手品見せいる新成人                   草野きょう子 

      探梅や話題はそれて徳利の数             幸野穂高  

      氷爆の青く輝く光かな                            山崎哲男   

      呼べば来る春を揺らせてブルドッグ                    飛鳥遊子 

                                                           

 

    2月のMVPは水流さんでした。「毛糸編む心配事も玉編みに」は10点句。肩

   肘はらぬさらりとした詠みが共感を呼び特選3つ。8点句の「春光やショパンの黒

   鍵躍りだす」は擬人化ですが、「踊る」でなく「躍る」として躍動感を生みました。

   さらに7点句の「枝を切る鋏の音の冴返る」。日常のふとした気づきを上手に1句

   に。やや散文的なうらみがあるので、「枝を切る鋏の音や冴返る」と切れをつける

   のも1案。いずれも季語の斡旋に水流さんらしいセンスの良さが光ります。

    クリーンヒットは小梅さんの9点句の「晩年と云う楽しみや名残雪」。どこから

   が晩年かという問題はさておき、うすうすもう晩年と感じている方々9名の同感を

   得ました。こちらも季語がはまっています。もう1つの9点句は遊子の「呼べば来

   る春を揺らせてブルドッグ」。酔子さんのコメントは、「ブルドッグがあの皺を揺

   らせて春を走ってくる景が見事に浮かびます。春を連れてやってくるとも、春の空

   気の中をやってくるとも。呼べば来るブルドッグのように春も呼べば来てほしいと

   も」と。謝謝。

    8、8、5点とこれまた多くの支持を得たのは朗子さん。「去り際の握手の記憶

   春の星」では「春の星」としたことで余韻を残した詠みぶりになりました。「白黒

   をつけぬ生き方竃猫」では巷間昔から使われる文言を用いていますが、竃猫と置い

   たところに面白みが出ました。朗子さんには「車椅子押す足元にクロッカス」の5

   点句もありました。

    「不要不急」再登板は三徳さんの「啓蟄だ出てこい不要不急たち」の7点句。”出

   てこいと言われても、まだ感染ひどいし‥‥もう暫く篭っていたい‥‥” 。 梓さん

   の7点句は「運命線引き直せるや寒北斗」。どんな運命になりたかったのでしょう

   かしら。5点句の「朗らかに囀るやうにチューリップ」もありました。

    「タンポポに不戦託せし人ありて」は楓子さんの7点句。英子さんの「銃口にタ

   ンポポ一輪挿しておけ」への関連句と拝見しました。想いがこもっていますね。折

   しもロシアの侵攻が始まりました。

    「陽炎の中を夢二の黒き猫」は桐子さんの7点句。夢二は、女性が黒猫を抱いて

   いる絵を数パターン残しています。自身を離れたところに句材を見つけられ、こう

   した詠み方も家籠りの昨今にはありかもしれません。ヒントをいただきました。も

   う1つの5点句「クレパスの赤短くてチューリップ」もありました。最後の5点句

   は梢さんの「雪の中土の香抱いて蕗の薹」。「雪」と「蕗の薹」という季重なりを

   承知の上でのことと。料理人の鋭い嗅覚が感じられますね。

    今回話題に取り上げたいのは、哲男さんの「レイシズムちびくろサンボ雪の道」。

   3段切れのうらみがあるものの、俳句にはしにくいテーマに挑まれました。兼題の

   「黒」からちびくろサンボを想起し、サンボが象徴する人種問題に切り込み、下五

   の雪の道は、黒とのコントラストを生み、彼の辿る道は陽だまりではないとの暗喩

   になっています。北京冬季オリンピックも人種・人権問題と無縁ではありえません

   でした。時事句は好みの分かれるところですが、その時代、その時の事象を書き留

   めることは、俳句の特技のひとつだと思います。欲を言えば、「レイシズム」と言っ

   てしまわずに、暗喩として表現する道を再挑戦していただきたいと思いました。

   <続きを読む>

 

 

                                                                                                     photo: s. negishi

                                                        まひる梅の咲くさえ朧愛人あり   末永有紀