2022年1月 句会報 | sanmokukukai2020のブログ

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   2022年1月三木句会報

 

 

      大雪の報を聞きつつ庭に水                    加藤光樹 

      その人は句集の中に風花に            さとう桐子  

       冬萌を離れがたきやはぐれ鳩                    

      蟠りそっと捨てくる雪の原                                     田中 梓    

       妣の影を冬の日照雨に見たやうな                  

       あやとりの箒は魔女を待ち居たり                  

      くさめして誰より小さくなる車中                             樹 水流    

       雨音はデクレッシェンドきっと雪                  

                  深海魚逝きて聴くかや虎落笛              藤井 素    

       そこここに見えぬもの在り冬深し                  

      煮凝りや不意に現る幼き日            原宿美都子  

      初場所の青空競う幟かな                    大塚楓子   

       餅返す手に皺見たり幼き日                     

      この年は闇の深さを除夜の鐘           太田酔子   

       人の日の机ひろびろペンの影                    

      車椅子言の葉のせて冬帽子            佐藤花子   

       神舞や三間四方足袋白し                       

      自販機の照らすバス停過疎の村                        草野きょう子   

      ひと気なき墓地を清める寒の雨                        関本朗子   

      ただいまと雨の匂いのコート脱ぎ                           小泉真樹    

      商店街軒なみ紙の松飾り                                         関根瞬泡     

      寒き夜や子の夢あやす老婆の手         幸野穂高    

      ベランダに割れた擂鉢冬の雨          神宮前小梅   

      ぬくぬくの布団の中は不要不急         國分三徳    

      雪原を切り裂くような鳥の声          山崎哲男    

      瀬戸内の幸の共演雑煮椀            佐々木 梢   

      冬の日や雨のカーテン眺めてる         白樫ゆきえ  

      人類の足跡のある寒満月                        飛鳥遊子   

      

 

    ウイルスに翻弄されている間に、はや1月も終わりそう。12月がお休みでたっ

   ぷり時間があったせいでしょうか、高点句が犇きました。上をご覧になると一目瞭

   然。上位獲得者は2句3句と複数の結果を残されました。

    ダントツの15点句は桐子さんの「その人は句集の中に風花に」は、英子さんへ

   の追悼句でしょう、とても綺麗に詠まれています。「に」を連ねたことで余韻が生

   まれました。特選4つ!桐子さんには5点句の「冬萌を離れがたきやはぐれ鳩」も

   あり、小さな冬萌には頬が緩みますよね。梓さんは9点句の「蟠りそっと捨てくる

   雪の原」、各5点句の「妣の影を冬の日照雨に見たやうな」「あやとりの箒は魔女

   を待ち居たり」の2句も。「妣」はこの場合「はは」と読み亡母の意。「日照雨」

   は「そばえ」と読み、陽の中に降る雨のこと。子供の頃、狐の嫁入りと言っていま

   せんでしたか。日本人は雨を400もの言葉で記してきました。『雨のことば辞典

    (講談社学術文庫)』があります。あやとりは冬の季語。「くさめして誰より小さく

   なる車中」は水流さんの9点句。最近誰もが感じているままを素直に詠まれました。

   他に7点句の「雨音はデクレッシェンドきっと雪」も。耳が雨から雪への変化を聞

   き分け、省略のきいた素敵な句です。素さんの9点句は「 深海魚逝きて聴くかや虎

   落笛」。やはり追悼句ですが、個人的には、彼岸では虎落笛ではなく、暖かで穏や

   かな何かを聞きたいと思いました。素さんの5点句は「そこここに見えぬもの在り

   冬深し」。映像を結ばない抽象的な表現ですが、誰の胸にもある漠然とした不安の

   ようなものが詠み込まれています。

    美津子さんの8点句は「煮凝りや不意に現る幼き日」。幼き日には、煮炊きした

   おかずは冷蔵庫に入れなくても冬の厨で煮凝りになっていたような気がします。

   「初場所の青空競う幟かな」は楓子さんの8点句。「幟」は鯉幟として夏の季語に

   分類されることもあるので要注意。「餅返す手に皺見たり幼き日」も5点をゲット。

   子供の頃というのはちょっとしたことをよく見ていて記憶の深いところに沈んでい

   たものが、ふっと浮いてくること、ありますよね。上手に詠まれたと思います。

    酔子さんも7点と6点句。「この年は闇の深さを除夜の鐘」は「この年」とする

   ことで、不安な闇を除夜の鐘に早く払拭してほしいとの願いでしょうか。「人の日

   の机ひろびろペンの影」の「人の日」は人日とも書き1月7日のこと。お正月気分

   が続き、まだ本格始動していない様子が伺えます。花子さんも7、5点句を。「車

   椅子言の葉のせて冬帽子」はやさしい追悼句になりました。「神舞や三間四方足袋

   白し」の足袋は冬の季語。きょう子さんの7点句は「自販機の照らすバス停過疎の

   村」。暗闇に煌々と発光する自販機、コンビニも引き上げてしまった過疎の村では、

   自販機はけっこう役立っているのかもしれません。朗子さんの6点句は「ひと気な

   き墓地を清める寒の雨」。欲を言えば、墓地に「ひと気なき」の措辞は不要かも。

   「ただいまと雨の匂いのコート脱ぎ」は真樹さんの6点句。雨の匂いが洒落ていま

   す。遊子の6点句は「人類の足跡のある寒満月」。人類の文明の進化を喜ぶ見方も

         あれば、日本の美意識を育んだ「雪月花」の月に下足痕(ゲソコン)なんて‥‥

   とも。私は後者。5点句は瞬泡さんの「商店街軒なみ紙の松飾り」。風情も何も

   あったものではないものの、この新年は経費節減、人通りも絶えた商店街では致し

   方なし。

    今年90歳をお迎えになる三徳さんが久しぶりに参戦してくださいました。「ぬ

   くぬくの布団の中は不要不急」。諧謔味溢れる三徳俳句に遊子は一人特選を献上し

   ました。穂高さんの「寒き夜や子の夢あやす老婆の手」。祖母が孫を寝かしつけて

   いる寒夜の寝屋の情景でしょうか。老婆の手に代えて「嫗の手」はいかがでしょう。

   穂高さんも今年90歳になられます。お二人にあやかりましょう!!

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                                                                                                    photo: y. asuka

                                                                一月の川一月の谷の中   飯田龍太