2021年11月三木句会報
島の景枯れ色の洩れ季を知る 加藤光樹
栗の実のひとつは浮けり厨の夜 草野きょう子
前歯なき笑顔全開七五三 関本朗子
黄落や喪中はがきがまた二通
枯菊の手折ればほのと匂いけり 佐藤花子
はじまりの島の謂れや里神楽
枯蓮の活けられ繋ぐ命かな さとう桐子
されこうべ凍土の緩むその下に 田中 梓
匂ひうすき犬の鼓動よ初しぐれ 太田酔子
イヤフォンを片方渡す芒道 佐々木 梢
島の猫大あくびして日向ぼこ 小泉真樹
石蕗の花指で伝えるさようなら 樹 水流
冬隣煮しめ煮かへす昼餉かな 藤井 素
小菊咲く斜に構え且つ奔放に 白樫ゆきえ
野良猫も姿消したりそぞろ寒 関根瞬泡
島陰に讃美歌流る秋の夕 幸野穂高
不調の日祖母の味まね葱雑炊 原宿美都子
火山島より押し寄せるもの冬の海 山崎哲男
学童が秋の夕陽に影絵かな 神宮前小梅
陽を吸って渋柿自我を捨てたとさ 飛鳥遊子
眉描いて人心地せり冬隣
今月は18名、72句。10句選はちょっと大変だったかもしれません。せめて
80句くらいは欲しいところですね。高点句も少なかったようです。その中で11、
10点句をいただいたのは遊子の「陽を吸って渋柿自我を捨てたとさ」と「眉描い
て人心地せり冬隣」。渋柿の渋はまさに個性。この句の是非は語尾の”とさ”、と、
現俳火曜教室で並選に取ってくださった対馬康子講師のコメント。はい。”自我”な
る生な言葉を持ってくる気恥ずかしさの照れ隠しでした。眉描いては、長きにわた
るマスク生活ですっぴんで外出の習慣がついてしまい、たまにしっかり化粧すると
”女敷居を跨げば7人の敵あり”に向かいあう気概も出てこようか、というもの。
2つの特選を含む9点句はきょう子さんの「栗の実のひとつは浮けり厨の夜」。
昼間拾った栗を夜なべの厨で洗い桶にざぶんと入れると、虫食いなのか一つだけが
浮き上がってきた、そんな情景を詠まれたものでしょうか。完成度の高い一句だと
思いました。「前歯なき笑顔全開七五三」は朗子さんの8点句。秋晴れの宮参りの
ワンシーンが目に浮かびます。5点句の「黄落や喪中はがきがまた二通」もありま
した。切れ字のやと、下五の散文的表現にちょっと違和感があるかもしれません。
6点句は2つ。花子さんの「枯菊の手折ればほのと匂いけり」は、繊細な感覚を
的確に書きとめられました。枯れたものにもまだ命の名残がある、とおっしゃりた
いかのようです。花子さんには5点句の「はじまりの島の謂れや里神楽」もありま
す。佐渡も隠岐も離れ小島には、何かしら古い謂れがあるようです。桐子さんの6
点は特選2つを含む「枯蓮の活けられ繋ぐ命かな」。やがて寒風にいたぶられ破れ
蓮になる蓮の葉も、上手に活けられてドラマチックな生け花に。
5点句は4つ。梓さんの「されこうべ凍土の緩むその下に」。全く状況が読めな
かったのでご本人に尋ねたところ、画家・香月泰男のシベリア抑留体験を描いた絵
からの発想とのこと。神奈川県立近代美術館葉山館で見応えある展覧会が終了した
ところです。「匂ひうすき犬の鼓動よ初しぐれ」は酔子さんの5点句。胸に抱いた
小犬、匂いが薄いということは犬は健康ではなさそう、きっと鼓動も弱々しいのだ
ろう、外は冷たい雨になって、、。感性の波長が合った人の支持を得た句でした。
梢さんの5点句「イヤフォンを片方渡す芒道」は恋の句でしょうか。そう読みた
いですね~。これくらいの省略ができると作句が楽しくなるはず。芭蕉の「言ひお
ほせて何かある」を肝に銘じましょう。最後の5点句は真樹さんの「島の猫大あく
びして日向ぼこ」。真樹さんはフィレンツェにお住まいということで、地中海の小
島の寂れた漁港の猫を思い浮かべました。最近では難民が上陸する島もあり、観光
客激減で小さな宿や家族経営のレストランはどうしているでしょうか。
2021年の三木句会は通信句会で明け暮れました。さて、来年は‥‥。
photo: Kerry William Purcell
Twitter @kerrypurcell
追憶のぜひもなきわれ春の鳥 太宰治