2021年1月句会報 | sanmokukukai2020のブログ

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   2021年1月三木句会報

 

      Vの字の松葉手帳に小正月             加藤光樹  

      天窓に貼りついている寒の月         有馬英子 

       鬱の字はまだまだ書ける初日記         

      小さな手ほほにあてられ知る寒さ       樹 水流  

       能書きの文字が小さい蜜柑むく              

      濃く淡く移る縁や賀状書く          関本朗子 

       寒昴眠ったままの可能性            

      寒燈の滲みて父の書影かな          田中 梓   

      六甲の襞の息づき風花来           太田酔子   

      思ふこと日に一つ成し花柊          白樫ゆきえ  

      煤逃げの面々集ふ理髪店           藤井 素     

       さらになほ灰汁を掬ひて節料理             

      寒卵かすかに震う未来かな          小泉水玉      

       寒鰤は喰ひたしけふも生きがたし           

      紐付きの定期入れ買う年の暮れ        大塚楓子    

      食卓のここが書斎よ日脚伸ぶ         原宿美都子   

       団子屋の廃業告知寒に入る                

      冬薔薇かたき蕾に香抱きて          澤橋 凛     

      絵葉書の余白は六花のこと          さとう桐子    

      書き順はもう直らない寒玉子         神宮前小梅    

      書初めや思いを込めて一画目         関根瞬泡    

      炭火つぐ居間に優しき陽の射しぬ       幸野穂高      

      涙腺のゆるみや真赤な林檎むく        草野きょう子 

      冬菫リュウグウの砂帰還せり         佐藤花子    

      寒三日月箱入り娘だったらし         國分三徳  

      水仙や時の流れの証明書           山崎哲男   

      皹や厨立つ母勲章              佐々木 梢      

      なづけえぬ情たゆとうて時雨かな       飛鳥遊子    

       冬の百舌笑い上戸が一羽いる         

 

 

    句会を競馬に例えるのも何ですが、まるで数頭がひとかたまりになってゴールに

   雪崩れ込んだ、という状況になりました。鼻の差とか首の差とか言うようですが、

   まさにその様子。8点句が3つ、7点句が7つ、6点句が4つ、5点句が7つ。全

   88句中ほぼ1/4の21句が5点以上という結果でした。揚句リストの2句目は

   5点以上の句です。前回ブログ同様、気になった句を中心に取り上げたいと思いま

   す。

    のっけからのクイズですが、日本で使われる漢字の中で画数の多い字は? 答は

   「びゃん」や「たいと」。「びゃん」の画数は58画。「たいと」はなんと84画。

   「たいと」に至っては、雲が3つに3頭の龍が折り重なった字。残念ながらここに

   は変換で出ませんので、お調べくださいね。英子さんの鬱は29画。この程度でも

   書けるのはすごい。「どれほどの鬱ならやまひ花茗荷」は、小児がん専門医の細谷

   喨々氏の句。私の中では鬱を使った忘れ得ぬ一句です。

    梓さんの句の中の書影という単語。墨跡に近い言葉かと思いましたが、書籍の外

   観、またその写真の意。薄暗い書庫にある古い蔵書の景色が目に浮かびます。素さ

   んの使われた「煤逃げ」、「煤払」とペアーになっているような冬の季語です。払

   う人と逃げる人。逃げて銭湯にゆくことを「煤湯」。理髪店とくれば、赤は動脈、

   青は静脈、白は包帯を意味するというくるくる回るねじり棒が目に。ちょっと落語

   噺の世界のよう。現代ならゲームセンターとかカラオケ店に集うのでしょうか。

    楓子さんの紐付き定期入れの句。遊子は特選でいただきました。運転免許証を自

   主返納されても、これからも出歩くぞ~っ、との前向きの気持ちが頼もしく、見習

   いたいと思いました。一昨年春に亡くなった大牧 広氏の最晩年の句集『朝の森』に

   ある「三月や車中いくたび席譲られ」に近い感じを持ちました。老いを受け入れ自

   らも対応し周りの親切も受け入れることが、正しい老い方なのでしょうね~。身辺

   のちょっとした変化や気づきをピンダウンして俳句にすることができるようになっ

   たら、作句はもっと楽しくなるのではないでしょうか。大げさな句材や状況を持っ

   てくることはないよ、と大牧氏の作品群は教えてくれます。

    美都子さんの団子屋の廃業告知は、まさに時事句の趣もありながら、普遍。お住

   まいも仕事場も都心のエレガントな地域なのに、辻奥にひっそりと残る老夫婦が商

   う団子屋があったのでしょうか。裏口に使い込まれた蒸籠が干してあったりして…。

   このご時世の廃業やむなし、を惜しむばかり。団子屋というノホホンと、廃業告知

   の乾いた4文字の対比が効いています。さらりと置かれた「寒に入る」の季語も納

   得。

    桐子さんの「絵葉書の余白は六花のこと」は詩情ある一句になりました。六花の

   読みは「ろっか」あるいは「りくか」、そして「むつのはな」とも読み、雪のこと。

   三徳さんの寒三日月の句。箱入り娘なんて、今時、懐かしいですね~、絶滅危惧種

   かも。英子さんの特選です。

    次号から新しく「放課後」を設けます。みなさまからの異論反論、コメントを載

   せる場として育ててゆければと思っています。お正月の一句を含めた今回の110

   句あまりの中から、好きな句を取り上げての鑑賞、コメントなど大歓迎です。

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                                                                                                photo: y. asuka

                                            秋の富士日輪の座はしづまりぬ  飯田蛇笏