2021・1
今月の「有馬英子その生い立ちと俳句」はお休みです。
そこで、『名句の所以』近現代俳句をじっくり読む 小澤 實/毎日新聞社版 から、
新年の季語「初明り」を使った一句とその解説を写します。
昨年12月6日、90歳で亡くなられた作者の有馬朗人さんは、原子物理学者で
あり、豊富な外国との交流から海外詠も多く、本格海外俳句集『鵬翼』には1996年
から2005年までの海外詠566句が収められています。視点のスケールの大きさが魅
力的な一句です。
初明り銀河系字地球かな 有馬朗人
新しい年を迎えて、窓からは初明りが差し込んでいる。人々は新年を祝う詞を言
い合っている。そういう地球ではあるが、けっして宇宙の中心にあるわけではない。
「銀河系字地球」、それはすなわち銀河系宇宙の中の片田舎にすぎないのだ。
「字」は町村内の区画の名である。それを宇宙の中の位置を表すのに用いている
ところに、新たなる時代の俳味がある。とてつもなく大きく、おおらかな句である。
地球中心主義、人間中心主義を排する句でもあろう。
朗人は科学者、原子核物理学専攻であるという。俳人は季語として、銀河や天の
川を詠むが、たまに眺めるくらいのことしかできない。地球が銀河のどのあたりに
あるのか、などとは考えない。宇宙への深い認識が作らせている句だろう。『分光』
(平成十九年刊)所載。【初明り】
紀の国の炭かんかんと響きけり
朗人は昭和5年生まれ。山口青邨門。平成二年「天為」創刊、主宰。
photo: y. asuka
絶唱のやうな富士ある寒茜 高橋道子