2020年10月三木句会報
大相撲無客も良しとコロナ秋 加藤光樹
麒麟の子睫毛にふわり秋乗せて 田中 梓
乱れ萩湯殿へゆるき鼻緒にて 太田酔子
去りし子の椅子の凹みや秋の暮 大塚楓子
照らされて想いも透ける後の月 関本朗子
首筋に凝り凝りとゐて秋思かな 小泉水玉
正午には閉める豆腐屋天高し 神宮前小梅
そぞろ寒前屈の手は届かずに 樹 水流
語らずに秋の声きく日暮れ時 澤橋 凜
おもざしの似た二人をり菊の酒 藤井 素
力士らの腹打つ音や九月場所 草野きょう子
軽やかに古希のパーマや菊日和 白樫ゆきえ
閻魔から色よい返事菊日和 國分三徳
猛暑過ぎ命たしかめ粥すする 田中 汐
すき通る渓流にある色と香と 幸野穂高
色褪せぬ夕暮れときの曼珠沙華 佐藤秀隆
一人旅芒と肴月が友 佐々木 梢
アマビエをベタベタ貼って神無月 有馬英子
紅葉狩バス脇で伸ぶ運転手 原宿美都子
秋闌くる無限花序咲く荒野かな 佐藤花子
君去りぬつひにゆく道月の道 さとう桐子
鎌倉は色なき風がよく通る 関根瞬泡
秋深しお腹気にしてダイエット 山崎哲男
切っ先の鈍らぬように三日月研ぐ 飛鳥遊子
今月はダントツの高点句は出ませんでしたが、何人かの方から、選ぶのが難し
かった、との声も届いていました。瞬泡さんからは、みなさん大分上達してこられ
ましたね、との嬉しいコメントもいただきました。
心身充実の梓さん、今回も最高点12点の「麒麟の子睫毛にふわり秋乗せて」の
他に「猛禽の大あくびして霧を吐く」(8点)、「野蚕糸の匂ひも織れば狭霧くる」
(6点)と動物をテーマにした高点句3つ。麒麟の睫毛が長いことに気づいていたと
しても、そこに秋が乗るとは!猛禽が大あくびして霧を吐く、との不思議な発想は
魅力的です。新境地開拓でしょうか。因みに、WIKIPEDIAによると、爬虫類も鳥類
もあくびをすると!
酔子さんの「乱れ萩湯殿へゆるき鼻緒にて」は11点句。温泉宿の男物の下駄を
引っ掛けて湯殿へ降りていった経験は誰にもあると思いますが、乱れ萩の季語が雰
囲気を醸し出しています。二つの”ゆ”音と二つの”は”音が、ふんわり温泉気分を引
き立てますね~。
「去りし子の椅子の凹みや秋の暮」は楓子さんの9点句。深い悲しみの句ですが、
それを句に仕立てるのは前向きの気持ちの表れでしょうか。強い気持ちを取り戻さ
れることでしょう。朗子さんは9点句を二つ並べました。「照らされて想いも透け
る後の月」と「一つ知り二つ忘れて秋の雲」、分かりやすく綺麗な句は朗子さんの
真骨頂です。
「切っ先の鈍らぬように三日月研ぐ」は遊子の8点句。英子さんと花子さんの特
選をいただきました。6点句は「天と地の和解のあかし秋の虹」。この文章を書き
ながらネットで「俳句・和解」と検索したところ、塩見恵介氏の句「たんぽぽを咲
かせて天と地の和解」の句が! びっくり。塩見さんの句、優しいですね~。これ
は類想句をチェックする方法です。水玉さんは7点句が二つ。「首筋に凝り凝りと
ゐて秋思かな」と「口許を隠せし女鬼初紅葉」。前の句には言葉遊びの工夫があり、
後の句は能の「紅葉狩」を背景にしていらっしゃるようで、当節の鬼女はマスクを
してと‥‥、いつも趣向を凝らし楽しませてくださいます。
photo: y. asuka
とうとうと青海原は醒めゐたり 富澤赤黄男