2020年8月三木句会報
水音にうなずき見せる沢桔梗 加藤光樹
夕虹の大いなる円町包む 草野きょう子
空き箱に空蝉仕舞う重さかな 樹 水流
三途の川游泳禁止国交省 國分三徳
秋立てば人に秘密の一つ三つ 小泉水玉
とりあえず夏痩せもせずラタトウイユ 関本朗子
爽籟や円柱の夢法隆寺 佐藤花子
弁証法熱く語りて生御魂 藤井 素
あめんぼう今日は円周10万回 関根瞬泡
母親の顔を知らない蝉の殻 有馬英子
桃の香の気づけばすこし傷ついて 田中 梓
耳鳴りに重なる合唱蝉の声 澤橋 凛
秋冷や未病のファジーに固まりぬ 太田酔子
茄子紺の古きグラスの傷愛し 佐々木 梢
逢えぬ人憶えば遠くひぐらしの声 田中 汐
盂蘭盆会胡瓜と茄子の大車輪 山崎哲男
四十雀仲間うながし飛び去りぬ 大塚楓子
敗戦忌あれからずっとオキュパイド 神宮前小梅
盆棚に父母の写真と庭の花 白樫ゆきえ
田草取る農夫たくまし田水沸く 幸野穂高
まだ有効二千円札秋扇 原宿美都子
あの世から二円不足の残暑見舞 飛鳥遊子
今回はばらつきました。その中でのトップ走者はきょう子さんの10点句「夕虹
の大いなる円町包む」。兼題の「円」を使われた素直な句です。続く9点句は水流
さんの特選2つの「空き箱に空蝉仕舞う重さかな」。軽いはずの空蝉の微かな感触
を、重さと置いたところが技あり。水流さんには6点句の「白湯を飲む昨日に区切
り夏の朝」もありました。白湯を飲むを昨日にかかるとすると、体調不良で白湯を
飲んでいたが、今朝からは元気になった、と自らを励ましていらっしゃる様子が伺
われます。ユーモア俳句路線の三徳さんの7点句「三途の川游泳禁止国交省」。哲
男さんの特選ゲットです。同じく7点句は水玉さんの「秋立てば人に秘密の一つ三
つ」。立秋で夏が終わるとすると、夏の間にヒミツなことがあったのでしょうね~。
仮定法にすると切れのない恨みと、こうするとこうなる、といった因果が生まれて、
俳句らしくなくなるという言い方もあるようです。秋立てり、として読み手を信じ
るという行き方はどうでしょう。同じく7点句は朗子さんの「とりあえず夏痩せも
せずラタトウイユ」。女性ばかり6名が同感されました。6点句の「円らなる仔牛
の瞳夏の雲」もありました。花子さんの6点句は「爽籟や円柱の夢法隆寺」。法隆
寺の四隅に建てられた円柱に思いを馳せられたのでしょうか。季語がぴったりです。
花子さんには5点句の「野仏の造花妖しや今朝の秋」もあり快調です。造花を供え
る人の心を妖し、と感じられたのは同感ですね~。
photo: y. asuka
星ばかり見ないで蓮が開くから 中村苑子