わたしの好きな俳人の五句
有馬 朗人(ありま あきと) 選んだひと 田中 梓(たなか あずさ)
葛切に透けて幼き日の山河
唐紙を開ければ月の真葛原
オーロラのさめゆき春の星生まる
音もなく白夜の森を急ぐ犬
知床の海へカムイの放つ滝
有馬朗人先生は旅を詠んだ句、特に海外での作句も多く、季語をやすやすと超え
ていきます。いずれも平明でありながら、豊かな知見が底を流れていて更なる深さ
を感じます。
有馬先生とのご縁は、「天為湘南句会」の会員募集で25年ほども前に入会。先
生はほとんど毎回出席され、時には夫人で俳人のひろこ先生も同席されるなど活況
を呈していました。20から30人位のスタートでしたが、短冊に5句書いて持参し、
参加者全員が清記用紙に一斉に書き写すという従来の方法でした。50人を超える
こともあり、句会という講義を聞いているような感じではありましたが、主宰のお
話が直接聞かれるのも利点でした。
当時、私は起業したばかりで次第に忙しくなり、いつの間にか俳句から遠く離れ
てしまいました。ご縁があって入った三木句会は、その当時も参加者は10人前後で、
双方向の会話を楽しむことができました。「座の文芸」である俳句、和やかな雰囲
気の中で、より高次の作品作りに邁進するための本来の場と言えるかと思います。
性別、年齢を超えて、共通の話題で語り合える機会も得難いものです。
後藤比奈夫(ごとう ひなお) 選んだひと 田中 汐(たなか しお)
遊ぶ石考える石道うらら
手にはがき翳し来る娘に街薄暑
はたはたの脚美しく止りたる
蛞蝓といふ字どこやら動き出す
蠅除をかけて待たるる幸不幸
後藤比奈夫は関西出身、第40回蛇笏賞を受賞し、今年103歳で亡くなりまし
た。京都の女学校時代の親友が後藤比奈夫の高弟になっており、彼女の影響で句集
を読んでいました。分かりやすい句が多く、楽しみながら読むことができて好きです。
後藤立夫(ごとう たつお) 選んだひと 原宿美都子(はらじゅく みつこ)
喜びを着るやうに着て春袷
飛花となるときと落花となるときと
見返りて男振りなる競べ馬
阿波をどり手足たりないほど踊る
ころはよし祇園囃子に誘はれて
数年前、主人の中学・高校・大学の同級生、後藤立夫氏の一周忌に主人が奥様か
らいただいた立夫氏の句集『祗園囃子』から選びました。先日、俳人後藤比奈夫氏
が103歳で亡くなったという新聞記事を見つけ、私でも知っているお名前で、立
夫さんと同じ苗字だったので主人にいうと、比奈夫さんは後藤夜半の息子で立夫さ
んの父上だよ、とのことでびっくり!
「ころはよし祇園囃子に誘はれて」は、立夫さんの辞世の句。それをうけて、父上
の比奈夫氏が詠んだ句が「戻り来よ祇園囃子が聞ゆるぞ」。また、お嬢さんの和田
華凛さんの詠んだ句が「つなぎし手離し祭の中へ消ゆ」。親子三代の見事な贈答句
を知りました。
今回は、父の後藤比奈夫を汐さんが、息子の後藤立夫を美都子さんが選ばれました。
偶然ですが、なんだか素敵だと思いました。
7月の「わたしの好きな俳人の五句」は、純野さん、哲男さん、ゆきえさんにお願
いいたします。
この企画はもう一巡続けることになりました。これからも折に触れ、句集を手にし
たり、ネットで気になる作家の作品に親しんでくださるといいなと思います。(遊)
8月 遊子、英子、梢
9月 水流、酔子、楓子
10月 光樹、小梅、きょう子
11月 水玉、穂高、三徳
1月 花子、秀隆、瞬泡
2月 朗子、汐、梓
3月 美都子、凛、晢男
4月 ゆきえ、遊子
photo: y.asuka
夜の冷蔵庫開けるな海があふれ出す 高野ムツオ