2020年 2月句会報 つづき | sanmokukukai2020のブログ

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   <瞬泡さんのコメント>

 

   人の名を憶い出せぬ夜おぼろ月    田中

   この句は「おぼろ月」という季語をうまく使っていて、いいのですが、やや、説明

   的なので、こういう場合は「おぼろ月」を頭にもってきて、

 

   おぼろ月人の名前もおぼろなる

 

   と、するとよいでしょう。

 

   寒菊の鋏あてれば蕾あり       白樫ゆきえ

   この句、作者の心くばりが表されていて、とてもいいのですが、もっと、その気持

   ちを前面に出して、

 

   寒菊を斬らんとすれば蕾あり

 

   と、したらいかがでしょうか?

 

   相対す記憶かすかに沈丁花      小泉水玉

   この句も季語の「沈丁花」をうまく使っているので、こういう場合は「沈丁花」を   

   頭にもってきて、

 

   沈丁花記憶かすかに蘇る

 

   と、するとよいでしょう。

 

             ~ーー ~ーー ~ーー ~ーー ~ーー  

 

    

 

   今月の注目句              太田酔子

 

   バレンタインのチョコを机上に少女去る     草野きょう子

 

    選句では一度目で採った句は最後まで残ることが多いのだが、二度・三度読み返

   してはじめて目にとまる句がある。掲句は後者の方である。私は季語に好みがあり、

   バレンタインは好みの季語ではないし、バレンタインにチョコはつきもの、その上

   少女まで。そして机上は教室のだろう。ところが、三度目で待てよ、と思った。

   「去る」に随分なふくらみがありそうだ。なんだか少女が去るのは所謂美しい一時

   期である少女という時期を去るのではないか。少女期への追悼句のように読めて最

   初の評価が変わった。

 

 

   細胞の泡立ちくれば春一番     田中

    

    「泡立ち」は「粟立ち」ではないかと思った。春は静かだった心が新しいことを

   求めてゾクゾクするような季節である。その先には明るい希望だけではなく自分が

   押し潰されるかもしれない恐怖もある。だから「粟立ち」だったならば春一番に似

   つかわしいと思ったのだ。

 

 

   ああ雪よ詩を紡いで上る坂     佐藤秀隆

 

    強い詠嘆から入る。上り坂は詩を創造する時の精神の状態をさし、あえぎあえぎ

   の苦痛であれ、精神の高揚であれ、どちらにしても「雪月花」、詩の三大テーマの

   ひとつをミューズに見立てて、それに呼びかけ祈りを捧げている句だと読んだ。

 

                                   (遊子・報)

 

 

                                                               photo: y.asuka