三木句会ゆかりの仲間たちの会:原宿美都子さんのエッセイ
優先席
今から10年、あるいはもっと前だったか、ある日つり革をにぎり
バスの窓を過ぎる景色をながめていた。肩を叩かれたようで振り向くと、
白髪の婦人がにこやかに私に座るよう優先席を指している。ご自分が
降りるので、次は私にとのご親切らしい。お気持ちは嬉しく有難く座ら
せていただいたが、当時自分ではまだ若いつもりで優先席に座るなど
思いもよらなかったので、後ろからでも、あるいは後ろ姿こそ優先席を
譲るべき老婦人に見えるのだと、その事に密かにショックを受けていた。
けれど「光陰矢の如し」、今では背中が曲がっている自覚はあるし、
アクションはスローモーション、我ながら前から後ろから斜めから何処
から見ても後期高齢のれっきとした優先席該当者。自分の身体なのに
指示どおり動いてくれない理不尽、それどころか痛みとなって反抗して
きたり…。急ブレーキで転んだりしたらかえって迷惑なことになると
思われ、バスはもちろん、電車でもご指名がなくても遠慮なく座らせて
いただいている。優先席、しみじみとありがたや~。
枝豆や一粒ごとに故郷の景 美都子
photo: y. asuka
食べるでも飾るでもなく通草の実 岩淵喜代子
