そもそも、「なぜ逃げなかったのか」という問いの答えは、「逃げられなかったから」という同語反復以外にない。他の犯罪でこのような問いかけがされるだろうか。「なぜナイフが取りだされて殺される前に、逃げなかったのだろう」「なぜひったくりにあう前に、気が付けなかったのか」。少し考えるだけでも、おかしさに気が付くはずだ。

逃げられるなら、逃げている。逃げられないのは、心理的、物理的、さまざまな理由で、逃げられないからである。こうした報道自体が、不幸にして次の監禁事件が行われた場合、被害者の救出をさらに困難にしないだろうか。次の被害者を出してしまう可能性すらある。助けられなかった無念さはわかる。しかし、「なぜ」を問いかけるのはやめたほうがいい。理由は、「逃げられなかったから」なのだ。