「時代の変革」は地方から始まる 作家・堺屋太一
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今から150年前の1865(元治2)年正月2日、高杉晋作は奇兵隊らを率いて馬関の要衝を占拠、長州の藩政を徳川幕府に対抗するものに変更するように要求、2月末には実現する。江戸の幕府から見れば「一地方の細事」だったろうが、これから幕末維新の動乱が始まり、3年のうちには国全体の倫理と体制が一変する。
この例に限らず、時代の大きな変化は、地方の動きから始まるものだ。
《地域安定・振興の論議の場》
「時代」が古び産業が振るわず、財政が借金頼みの破綻状態になると、人口は都に集中し地方は極端に衰退する。それにも拘(かかわ)らず、中央の官僚たちは前例踏襲の規制維持に安住し、地方の行政官は中央の指示にのみ従う。それが地方行政の安全で安易な道だと考えられているからである。
江戸時代の末期も、第二次大戦に向かう昭和10年代にも、そんな状態が生まれていた。
第二次大戦後の制度では、そんな中央集権・地方追従型の政治行政を避けるために、地方自治体の首長を選挙で選ぶ公選制にし、都道府県と区市町村の2段階の地方議会を設けて行政と予算を監視監督し、政策アイデアを練らす機関とした。
従って、府県議会や市議会などの地方議員は、それぞれの地域の代表的な職業に従事する人々が、仕事と生活の場を通じて知り得た情報を持ち寄って議論し、地域の安定と振興に知恵を出し合う場であるはずである。
民主主義の伝統を持つ欧米でも、地方自治の形はそれぞれに異なるが、地方議員の機能と形態はほぼ貫かれている。地方議員のほとんどは別に本業を持つ市井の職業人か、広域政治へ進出する「修行中の人々」で占められている。
《地方議員の高報酬と専業化》
日本の実情はどうか。
まず目立つのは地方議員に高額の報酬などが支払われていることだ。2014年の公表資料によると、47都道府県議会の議員に支払われた報酬は261億円だが、別に期末手当や政務活動費などの名目で294億円が議員に支払われている。議員1人当たりにすれば年間2026万円にもなる。
市や特別区の場合、全国812の自治体で2万425人の市議会議員、区議会議員がいるが、それに支払われた報酬の総額は1047億円、期末手当や政務活動費などは655億円、合計で1702億円に達する。議員1人当たり833万円になる。
さすがに小さな町村の議員になると、平均報酬などは年間370万円。それでも過疎地では結構な給与である。
この都道府県会議員や区市会議員の報酬などは諸外国に比べ断然高い。諸外国では地方議員は地域の職業人のボランティア活動と見做(みな)されており、報酬などは会議出席日の日当だけというのが多い。中には全く無給という例もある。
日本の地方議員の第2の特色は、ほとんどが男性で他に職業を持たない専業議員が多いことだ。
都道府県議会議員の91%は男性、その半数近くが専業議員だ。以前は農業や建設業者あるいは造り酒屋などの製造業を営む「地方名士」が多かったが、今では議員専業者が断然多くなっている。中には2世議員も多く、地方議員の「家業化」さえ進んでいる。
これでは地方議員の地位を守ることが優先され、政策論議や地域興しの知恵が出ないのも当然かもしれない。
この傾向は区市の議員にも広まっている。地方の市議会議員には、農業や小売業を営む者もいるが、断然の1位は専業議員、全体の3分の1を占めている。
要するに、日本の地方議会は高給を取る地方議員専業者の場になりつつあるのだ。
《改革の第一歩は統一地方選》
日本の地方議員は高給だが、特に忙しいわけではない。平成21年度で見ると都道府県議会の会期は平均98日、区市議会で85日、町村議会では僅か44日である。しかもこの会期の間、すべての議員が会議に出席するわけでもない。高額の割には稼働期間が少ないのだ。
日本の地方議会の低調さを示すのには、次の数字がよいだろう。
各都道府県の知事や市長、区長らの首長が提出した議案をこの4年間1本も修正や否決をしたことのない「丸呑(の)み」議会が50%もある。また議員提案の政策条例が1つもない「無提案」議会が91%、議員個人の議案への賛否を明かさない「非公開」議会が84%にも及んでいる(朝日新聞調査から)。
これでは地方議会から地方振興の知恵を期待するのは無理だろう。欧米では地方議会の会議を休日または夜間に設定、一般の会社員や教員、ジャーナリストが参加できるようにしている。日本もそれに倣うべきではないか。
高給を取り専業化が進む日本の地方議員は、それ自体が守旧の牙城ともいえる。これを崩す改革の第一歩は、今年4月の統一地方選挙。地方議会の仕組みと人材を改め、地域の振興に一石を投じたいところである。(さかいや たいち) 転載終わり