
てんぐのきのこ
8339-11814-0027
あかね書房
谷 真介 文
赤坂三好 画
1976年2月25日 発行
あかね書房刊の「新作絵本日本の民話」シリーズの14作目。
八丈島に伝わる昔話をもとに創作された。
「むかしから山にはたくさんきのこがはえておじゃった(いた)。」
というように全編に方言が盛り込まれており、それに括弧書きで標準語も添えられているので子どもにもわかりやすい。
方言には「だんしんになる(気がおかしくなる)」とか「へべら(きもの)」のように注釈がないとなんだかわからないものもある。
物語は、あるとき江戸から八丈島に「うしまつ」という釜を背負った男が渡ってきたことからはじまる。いつも釜を背負っているので「かままつ」と呼ばれ、いつも腹を空かせては村人の仕事をその怪力で手伝い、食べ物をわけてもらっていた。
しかし、あまりの大食いに村人があきれて仕事を頼まなくなると、腹を空かせたかままつは相撲の大会に出場。その怪力でたちまち優勝するが、しまいに対戦した牛をだめにしてしまったので、賞品の米ときのこがもらえなかった。空腹のあまり山中をさまようと、うまそうなきのこがたくさん生えていたのでさっそく食べることにした。村人はそのきのこは食べてはならんというが、かままつはそれも聞かずに・・・
かままつが食べたきのこは地元で「てんぐのきのこ」と呼ばれ、食べると気がおかしくなって、高いところへ登りたくなってしまう。
はたして、この「てんぐのきのこ」とはなにか?
本の後書きによると、江戸時代の「八丈志」「七島日記」にこのきのこの話が書かれているという。
「八丈志」では「天狗茸」は「端山」に生える長さ2尺(約60cm)のきのこと書かれ、「七島日記」ではシメジによく似た「毒菌」と書かれているという。
おいしくて精神に作用するきのこといえば「ベニテングタケ」を思い浮かべるが、八丈島にはない。
じゃあ、「テングタケ」のほうかというとそれもわからない。
「てんぐのきのこ」というのは、食べた人間が高いところへ登ることからきているのだろう。
精神に作用するきのこだから、ワライタケのような幻覚性毒きのこであると考えられる。
しかし、こうしたきのこの大部分はシロシビンなどの成分を含み、そうしたきのこは現在では麻薬取締法の対象となっているため、研究するための免許を持たない人間が採取所持すると逮捕される可能性がある。
本の最後はこうしめくくられる。
「おんべいかつぎ(めいしん)ではおじゃらない。おかしけきのこはくうてはなりもうさぬど」