あまり体調が良くなかった。
季節の変わり目だからだろうと放っておいた。
初期刀の歌仙兼定に顔色が良くないと指摘され、連行されるがまま診察しに行った。
まさかの余命がついてしまった。
余命3ヶ月。
思いの外短い。
そういうもんかなと、あまり現実感がなかった。
本丸運営がようやく安定してきた頃だ。
折角だからこの本丸は残したい。
強く思った。
だから入院はしないことした。
時の政府に即連絡を入れ、本丸引継ぎの手配をした。
通常、本丸の引継ぎは審神者同士顔を合わせることはない(戦死等急死することが多い為)
しかし今回はスムーズで適切な引継ぎが可能だった。
この本丸のアレコレを次期の審神者に直接伝えられる。
その手を使わない手はない。
次期審神者も男士達も、恐らく一番ストレスなく引継ぎ出来ると思われる。
歌仙兼定は慌てて自分に入院を勧めてきた。
やんわりと断った。
親が同じ病に倒れたのだ、入院後の結末を知っている。
より有効な時間にしたいのだと自分は無理を押し通した。
歌仙は大きく溜息をついてなるべく無理はするなと言った。
力なく顔を伏せた歌仙の、その顔に落ちるまつ毛の影が思いの外繊細で、とても綺麗だと思った。
次期審神者候補は直ぐに派遣されてきた。
霊力の質が極めて似ていると思った。
時の政府が気を利かせたのだろうか。
これなら男士達への負担も少ないだろうと、少なからず安堵した。
その男は優秀だった。
コミュニケーション能力も高く、あっという間にこの本丸に溶け込んだように見えた。
自分の伝えたい事を良く受け取り、瞬時にそれを深め、即実践していた。
自分よりよほど審神者に適している。
同期なら嫉妬しようもの。
今はそれが有難い事だと知った。
自分はストレスなく伝える事を伝え尽くした。戦闘の事は教える必要はほぼなく、庶務的なことの他は男士達の様子や好み・個体差などを伝えるだけで良かった。
安心して任せられる、いつでも安心して逝ける。
とても嬉しい事であった。
体は徐々に動かなくなっていった。
執務室に篭る事が多くなった。
男士達はひっきりなしに顔を見に来てくれた。
季節が一つ進んだ頃、痛みもひどくなり、薬で抑えることが多くなり、日がなうとうとする日々が続いた。
男士達には、自分が居なくなった先を自由に選ぶ選択肢を与えた。
出来れば次期審神者についていって欲しかった。
ここに顕現して自分のもとに来てくれたそのままに生を繋いでほしいと、何となく思った。
意識のなくなるまで、恐らく意識のなくなった後も、歌仙兼定は側に居てくれていたと思う。
ふと手に触れた温度はとても温かだった。
先代審神者が亡くなった。
その時、自分は先代の寝室の端に控えていた。
初期刀の歌仙兼定と初鍛刀の薬研藤四郎は自分達の主の枕元に座し、声もなく俯いていた。
歌仙兼定はそっと主の手に触れ最期の別れをしたように見えた。
その報を、直ちに本丸全体に知らしめた。
それがこの本丸における初仕事だった。
審神者逝去にあたり、
翌々日に葬儀をし、一週間喪に服す。
その後はそれぞれの意思を確認する。
大広間に当本丸所属の男士を見張り以外全員集め、簡潔に伝えた。
審神者の座す上座には、座らなかった。
それは先代の審神者を送り出した後のことだと思った。
歌仙兼定はチラとこちらに視線を飛ばしたが、特に何も言わなかった。
乱藤四郎や幾人かの短刀、涙脆い刀たちは涙していたが、それはあまり長くは続かなかった。
彼らがモノであるためか、
長い年月を過ごしてきたためか。
只人には分からぬ想いを抱いているのだと思う。
葬儀はしめやかに、それでいて淡々と行われた。
少し不思議な感覚だった。
喪に服する間、政府から本丸援助の人員が派遣されてきた。刀剣男士ではなく、生身の人間たちが数名。
本丸運営の、特に生存に関わる部分を担ってくれた。食事の用意、掃除、洗濯、畑仕事、馬の世話。そういったものを全て彼らに任せる事が出来た。
ずっとやってくれたらいいのにと軽口を叩くものもいた。特にこの世に長くいたものほど、そういう思いを持つものが多いように感じた。
それぞれが、
それぞれの時間を過ごし、
喪が開けた。
すごい事だと思った。
多くのものが先代審神者についていくと言う。
殉ずるというのか、刀解を希望した。
正直本丸運営が特別に素晴らしかった訳ではないと思う。
が、男士達から慕われる審神者だったのだろう。
自分は自分を恥じた。
上手くここに溶け込み、多くのものが自分について来てくれると思い込んでいた。
ほんの2.3ヶ月で、その数倍もの時間を紡いだ者に叶うはずがないのだ。
少なからぬ嫉妬心を覚えたが、それは仕方のない事だ。
自分は彼らに応じると口にした。
本丸内は閑散とした。
幾振りかは自分についてきてくれるようだ。
有難いことだった。
先代審神者の初期刀 歌仙兼定は残った。
先代の意思を優先したのか否か、自分には分からない。
ただ出来る限りの力を貸すと言ってくれた。
先代審神者の初鍛刀 薬研藤四郎は先代に殉じた。
次代の初鍛刀にはなり得ない曖昧な立ち位置だからだそうだ。
悲壮感の全くない、あっけらかんとした様子だった。
戦力保全のため なるべく多くの刀に残って欲しかったが、そうもいかなかったが、致し方のない事だろう。
自分はこれから自分の色の本丸を作る事になる。
先のことを思うと少し憂鬱だが、それを察してか、歌仙兼定は微笑んで そっと茶を出してくれた。
美味しかった。
良く晴れた温かな縁側でのことだった。
微笑んだ顔の、その顔に落ちる睫毛の影が、とても美しいと思った。
先代も見ていたであろう、慈愛のこもった微笑みだと思った。
