大袈裟なのは好きではない。
俺はとある日の早朝、本丸の門を後にした。
戦闘でもなく、遠征でもない。
もう戻る事のない門出。

俺は振り返らず進んだ。


俺は、主・・いや、元主になるのか。元主の言葉を頭で反芻していた。

聞きなさい。
私は所望されて君を他本丸へとやりますが、君を蔑ろにしたい訳ではありません。
君はもちろん、この本丸にいる刀剣男士達は皆私の大切な家族、大切な宝なのです。
その中で、君があの方の目に止まった。
君があの方の期待に応え得る一振だと、そう感じてもらえた。
まだ極前の一振です。
その君が、それでもと所望して貰えたのです。
私は、それを、誇りに感じます。

俺に主命を下した後、主は俺に目線を合わせ、一言一言大切に話してくれた。
体格はかっちりしているが、主・・元主は背はそんなに高い方ではない。
だが俺にはとても大きな存在に見えた。

差し伸べてくれた手を、俺は両手で包み込んだ。本体の刀を振るわれる事はなかったが、その手を手伝う一振になりたかった。
主命を果たす事で それは叶えられるかなぁと、俺は確信を持って、それを希望とした。

主の、・・元主の手。
少しカサついていて、暖かだった。


「長谷部くーーーん!!、ちょっと待って!」
俺を呼ぶ声がする。少し待っていると、燭台切が全速力で走ってきた。

「長谷部くん、転移装置を使って行くんじゃないんだね?。最後に朝ご飯食べてもらおうと思って作ったのに居なくて、ビックリしたよ!」
はいっ!と手渡されたのは、籠に入ったサンドイッチと小さめの魔法瓶だった。
どうやら先日朝に作ってくれたものと同じものらしい。少し笑ってしまった。
そうだ、この本丸では、誰もがこのように接してくれていた。皆、暖かだった。

「荷物になるかもだけど」
燭台切は、少し首を傾けてにっこりと笑った。主と同じ癖。
新しい本丸でも、そこにいる燭台切は同じように微笑むのだろうか。

「旅の途中で頂くとするよ」
俺は籠と魔法瓶を受け取った。

堅い握手をすると、燭台切は他の男士達の朝食の準備があるからと、早々に立ち去っていった。
演練で会ったら宜しくと言い残して。
戦に身を投じる者として、別れの簡潔さはよく分かる。
それで良い。

刀剣男士というものは、
その点とても有難い存在だと思う。

いつでも会える。
人の身を無くしても、いずれまた何処かで。

地獄か、
はたまた博物館でか、
分からないけれど。