僕は呆気に取られた。

呆気に取られたというか、、、

顔がどんどんと赤くなっていっているのを感じる。


僕の隣で僕の初鍛刀の薬研が、

その正面に座る元の審神者の薬研が、

にやりと口の端を上げてこちらを見ている。


僕は、僕は、固まった。

あんみつの木の匙を持ったまま、元の審神者の彼女を見る他なかった。


「わたし・・わたし、あなたの事が好きになってしまいました!。出来たらこのまま、あの本丸に残って欲しいです!!」


注文したそれぞれの甘味が机に届いた後、二人の薬研と元の審神者の彼女が目配せをしたかと思ったら、彼女は一気にそう口にした。


そしてそのまま、下を向いたまま、動かない。


僕も、びっくりして、動けない。


その状態を、二人の近侍は、楽しむようにして眺めていた、と思う。


「良い話だと思うんだか?。俺たち刀剣男士は皆二人の主のことを好いている事だしな」

塩大福を一口に頬張りながら、元の審神者の薬研が言う、

「一応政府にも確認したが、前例がないこととは言え許可は出た。二つの本丸に解体して軍績が落ちるよりはその方が良いらしいぞ」

僕の初鍛刀の薬研は、磯部餅を勢いよく伸ばしながら言う。


二人の薬研の視線が僕に集まった。


僕はドギマギした。

思わず下を向くと、あんみつの中の栗の甘露煮が目に入った。

金色に見えるくらいつやつやだな、と、何故か無関係な事が頭の中を巡っていった。


「本当は、もうそろそろ、あの本丸を出る頃だと思っていました」


ようやくそう口にする。


その言葉に反応して、元の審神者の彼女は顔を上げた。

端正な眉の端を八の字に下げ、その表情は寂しそうだった。


僕は慌てて付け加える。


「あなたは大分健康になってきた。執務を執り行うのも、全く問題ないと見てて思う。もう元のような体制に戻ったとしても大丈夫だと思います。」


そう告げると、彼女の目から涙がハタハタと流れて、僕はもっと焦った。


「えっ、いや、だから僕は・・そろそろ出ていく時期かと思っていたんです!。でもっ!、だから、その・・・何か、そんな風に言ってもらえて、僕はとても嬉しいです!!!」


僕は、思わず叫んでしまった。

思わず立ち上がってしまってもいた。


呆気に取られた元の審神者の彼女と二人の近侍は、しばらくポカンと僕を見て、・・・お互いに目を合わせて、やがて皆の顔に笑みが拡大した。


「大将、その言い方は驚くぜ!」

僕の初鍛刀の薬研は、僕の背中を盛大に叩いて、叩きつつ僕を椅子に座らせた。


元の審神者の彼女は、泣き顔のままだったが、寂しさの涙から嬉しさの涙に変わったんだと思う。

彼女の近侍がそっとハンカチを差し出していた。

目はしっかりとこちらを見て、やったな大将!とか言ってそうだった。


「いや〜、肝が冷えだぜ。てっきり脈ありだと思ってたからな」

お茶のおかわりをもらいながら、元の審神者の薬研は言う。

「割とバレバレだったというか、まぁ、本丸の男士全員が知るレベルでの脈あり加減だったよな」

僕の初鍛刀の薬研は餅でベタベタになったらしい手をお手拭きで拭いていた。

(さっき背中を叩かれたが、餅で汚れていないか不安だ)


元の審神者の彼女は、落ち着きを取り戻して、練り切りの饅頭を食べていた。

チラとこちらを伺って来て、目が合って、恥ずかしげに微笑んだのを、僕は可愛いと思った。


僕は、とても嬉しかった。

本当は、多分、いつの頃からか、僕は、彼女のことが、好きだった。


だから、

だから。

いつか離れる時が来るならば。

心が壊れる前に居なくなりたかった。


実際は、そうではないらしい。


栗の甘露煮を口に入れると、

それはとてもとても甘くて美味しかった。




「さて、と。そろそろ帰るか」

小一時間過ぎた辺りで、元の審神者の薬研が立ち上がる。

「そうだな。じゃぁ、本丸にも連絡入れとくか」

僕の初鍛刀の薬研は通信機を取り出して何やら話をしている。


「なぁ大将。俺っちの大将の事、宜しく頼むぜ?」

あんたも俺の大将だがな。

元の審神者の薬研は肘で僕の脇腹を突いて来たから、ギュッと首をホールドして誓った。

「頼りないだろうけど、こちらこそ宜しく」


「なぁ大将!!。本丸では祭りだぜ。帰ったら覚悟しなよ」

通信機をしまいながら、僕の初鍛刀の薬研は言う。

「事実が公になっただけなのに、面白いな。皆騒ぎたいだけだな」

まぁ俺もその一人だけど。

そんな事を言いながら会計を済ます。


店を出ると、空は薄く夕方色に染まり掛けていた。


僕たちは、二人の薬研に挟まれて歩く形になった。


僕の手に、彼女の手が触れたから、

僕は、そっと彼女の手を包み込んだ。