元の審神者の彼女は、もう大分健康を取り戻していた。本丸の中を歩き回るのはもちろん、庭を散歩したり、内番している男士達に声を掛けて回る事も出来るようになった。
先日は最寄りの万屋まで二人(とその近侍の薬研二人も同行している)で行くことも出来た。
秋が深まり、しかしまだ冬の足音は聞こえて来ないくらいの時期だった。
暑くもなく、寒くもない。
空は抜けるように青く、風はそよと吹く程度の爽やかな空気だった。
(もうそろそろかな)
僕は、そう思った。
そろそろ本丸を明け渡す時期なのだろうと感じる。
空は雲一つなく晴れやかだ。
僕の心と一緒だと思った。
「なぁ、大将。折角だからこの先の甘味処に行かないか?」
僕の初鍛刀の薬研が言う。
「そうだな。大将の行きつけの店だし、少し休憩も必要だしな」
元の審神者の薬研も賛同する。
どちらの薬研も それぞれの主を"大将"と呼ぶが、特に混乱は起きない。それが馴染む程の時間が経っていた。
元の審神者の彼女も薬研達の提案にニッコリと微笑んだので、それは決定事項になった。
僕も甘味は好きだ。
茶菓子で甘味を頂くことはよくあったが、そういう店には入った事がない。
これまで必死に走って来たからそういう息抜きは有難い。
楽しみが増えた。
その場所で、先ほど考えたことを伝えようと、僕は思った。