ふと、夜中に目が覚めた。

隣の執務室に明かりがついているようだ。

話し声が聞こえる。


「良かったな」

「あぁ、有難う。喜ばしい事だ。一年、短かったようで、・・長かった」


近侍の二人が話をしているようだ。

ゆっくりと襖を開ける音が聞こえる。

こちらに明かりが漏れてこないから、執務室の向こう側を見ているのか。


僕の執務室の向こう側には、元の審神者の執務室がある。彼女(元の審神者は女性らしい)が戻ってくることを考慮し、元の審神者の執務室はそのままに、僕は隣に新しく設えられた部屋を自分の執務室とした。

それぞれの執務室の隣に、それぞれの休憩室(寝室)がある。

相似形に並んでいるのだ。


元の審神者の執務室は綺麗に保管されていた。元の審神者の薬研がこまめに掃除しているようだ。

僕は遠慮してその部屋に立ち入ったことはないが、元の審神者の薬研がその部屋から僕の執務室に入ってくる時に、中の様子が見える事がある。


机の上にいつも花が飾られていた。

華美なものではなく、道端に生えているような草花ではあったが、綺麗だと、僕は思った。


「あの人が戻って来るのは、何よりも嬉しいな」

元の審神者の薬研は嬉しそうにしみじみと言った。

僕の初鍛刀の薬研は何も言わなかったが、頷く位はしただろう。


「でもな。今の主も良い主だ。難しい引継ぎを文句も言わずにやってくれている。上手いこと本丸運営も回り出したところだ。弟たちや他の男士達とも良い関係を結んでいる。その主がここを離れることになるとは、それは少し、残念だな」

元の審神者の薬研は、噛み締めるように言葉を紡ぐ。

僕の初鍛刀の薬研はまたしても何も言わなかったが、頷く位はしただろう。


僕は、嬉しかった。

そして、少し・・少しどころではなく、寂しくなった。

頭から布団を被って、僕は少し泣いた。