新しい刀剣男士を迎える準備は既に出来ている。
遠征部隊から伝書鳩で知らせを受け、即手配をしていた。
新しい男士の為の生活用具を一通りと、洗い替えを含めた戦闘服や内番着を揃え、部屋を整え、当番等役割分担表の変更も終えている。
後は遠征部隊の帰城を待つばかりだった。
この本丸では、被りなく初めて迎える刀剣男士となる。
まだこの本丸は成立したのが最近のため、新しく来る男士は有難い。特に新しい顔触れともなると、きっとこの本丸に新しい風を吹き込んでくれるだろう。
刀剣本体が届き次第、男士を顕現させる儀式を執り行うが、その準備も手馴れてきた。一通り手順を頭の中で繰り返し、心落ち着けて遠征部隊の到着を待ちわびた。
程なく遠征部隊の面々は帰城した。
皆が期待の気持ちを持って見守る中、速やかに顕現の儀を執り行った。
新しく来た刀剣男士は、物静かで、しかしいつも和かな笑顔を絶やさない子だった。
好奇心旺盛な短刀達が無邪気に笑い掛けても、酒に酔った男士がからかい混じりに話し掛けても、無愛想に役割分担を説明されても、愛想良く和かに対応していた。
朝は早くから鍛錬を行なっていた。時間が来たら内番をキチンとやり、食事の準備手伝いやその他の本丸内での細々とした仕事も、特に当番でなくとも手伝うことが多かった。
誰もがその男士の事が好きになり、彼の周りにはいつも男士達が集まって賑やかだった。
その中で、彼はいつも穏やかに和かに微笑んでいた。
そんな折り。
時の政府から、思わぬ指令が下った。
『新しく来た刀剣男士の刀解をせよ』との命だった。
突然の事で驚いた。
速攻で理由を問いただしてみたが、ただ当本丸に重大な悪影響を及ぼす可能性がある、とだけ返答があった。
従って、速やかに刀解を済ませるように、と追加で返答があって、それきり電信は不通になった。
・・・・。
納得がいかない。
納得はいかないが。
命令は、従うべきである。
どういう事なのか、考えた。
この本丸に重大な影響を与える、とは。
もっと元気で、この本丸を物理的に破壊しそうなメンツなら他に沢山いる。
大食漢で、経営的な面でこの本丸を傾けさせそうな男士も沢山いる。
刀装を溶かしまくる子もいれば、直ぐに重傷を負ってしまう子もいる。
だが、それでも何とかやってきたのだ。
これからも上手くやっていけると、思うのだ。
が。
命令は絶対であり、
従わない訳にはいかなかった。
理由を、伝える事も出来なかった。
それはこちらの預かり知らぬ事とはいえ、何だか申し訳なかった。
彼も、何も言わず、甘んじて受け入れた。
そして、彼は居なくなった。
しばらくは、この本丸は沈んだ感じになったが、程なくして以前のような賑やかさは戻った。
こちらの心は、少しは元には戻ったが、完全に同じになる事は、有り得ないだろう。
彼は、この本丸の重大な危機を乗り越えて未来からやってきた刀剣男士だったのかもしれない。
その、如何ともしがたいこの本丸の危機を回避する為に、戻ってきたのではないだろうか。
そしてそれは、歴史改変に他ならない。
ただの予想でしかないが、その位しか想像が出来なかった。
何があったのか。
何があるのか。
少し、注意しておく必要がある。
それによって、何か重大な危機を回避出来たとしたら。
それはそれで歴史改変に繋がってしまうのではないか、とも、思うのだが。