本所三笠町の旗本・味野岌之助の上屋敷に、草木も眠る丑三つ時にあらわれる血まみれの巨大な足の怪異。いはゆる「化物屋敷」、今ふうにいえば「事故物件」とでも例えるべきでしょうか。
江戸・本所七不思議六夜目の話しは「足洗い屋敷」です。
人の寝静まった真夜中、座敷の天井から巨大な泥だらけの足がニューッと突き出てくる。もちろん、これにはだれでもおどろくだろうが、ただおどろきあわてふためくだけではさらに害を大きくするばかりである。ほうっておけば、その巨大な足は家具を踏みつけたり、建具などをこわさんばかりに大暴れする。気丈なものがいて、泥だらけの足をていねいに洗ってやると、おとなしく引っ込むのだという。
屋敷に出る巨大な足ということでは、この本所の「足洗い」が有名であるが、有名な話が各地に残っている。
それらの地名には、たいてい「せんぞく」という名がついていて、「千束」や「洗足」などと書く。東京だと浅草に「千束」という地名があり、これが本所の「足洗い」と関係があると思われる。大田区には「洗足池」という名の池がある。
柳田国男などの研究によれば、この大足は「ダイダラボウ」など、山の巨神のものと関連があるらしい。
この神、または妖怪のようなものは、あちらこちらへよくで歩く。それがやってきた土地では、遠路はるばるのお越しに対して敬意を払わなければならない。その行為が、足を洗ってさしあげることにあらわれているのだろう。いずれにしても妖怪を粗略にあつかうと、よけいひどい目にあうのである。
◆参考資料
『日本妖怪大全』 水木しげる 著 講談社 発行
『日本妖怪大事典』 水木しげる 画 村上健司 編著 角川書店 発行
『江戸の闇 魔界めぐり ‐怨霊スターと怪異伝説‐』 岡崎柾男 著 東京美術 発行