レナちゃんの流れからこの4人組のうちの2人のことを。

 

 アルコール依存症のテツヤさん。

 精神病棟では少なからず、見た目としてもどよんとしていたり、うつろなひとだったり、情緒が安定しているなど色々あるのですが、テツヤさんは初対面で「あ、この人、しっかりしてるな」と思った。

 

 誰にでも話を合わせられる能力のある人は一定いると思った。そしてうまく自分のことをはぐらかすことがうまい人も。

 テツヤさんはそのタイプだと思った。

 話はうまいが、自分の話はあまり話したがらない。

 

 そんなテツヤさんが窓を眺めてぼーっとしている日があって、隣に座った。

 「きょうは、なんだかもの思いにふけってますね」

  

 「画になるでしょう」

 

 「なるなる笑。テツヤさんってアルコールで入ってきたっていうんですが、この病院、アルコール病棟もあるけれど、そこに行くのと行かないのの違いってなんかあるんですか?」

 

 「俺もさ、よくわかんないんだけど、あっちのアルコール病棟って多分、任意入院(自分の意思で入院)でしょ、おれ、医療保護入院(家族が同意の上の強制的な入院)なんだよね。だから何だと思うよ」

 

 ここの病院は3棟建物があり、1つが急性期と慢性期と外来が入った建物 1つが慢性期専門(数十年入院しているひともいる)、1つがアルコール専門の小さな建物があった。

 

 アルコール病棟が散歩で庭のベンチに乗っていて見ているとよく、グループワーク(入院ではなく通いでリハビリ)終わった人がどっと出てくるが、男性が圧倒的で結構お年を召した人がおおい印象だった。

 

 そして、なるほど、と思うのだけど、入院の病棟にはアルコールはおいていないのだが、一歩外に外出すれば、コンビニで色とりどりに並ぶ酒類。

 よく、近くのファミリーマートでアルコールを買い(ストロング系が圧倒的に多い)、店舗の外に座り込んで飲んでいる入院患者を目にした。

 もちろん、外出先でアルコールを摂ることは禁忌なのだが、破る人が少なからずいるのだ。

 

 「テツヤさん、アルコール飲みたい?」

 

 「あー離脱症状?あったよ。おれ、ストロング缶毎日5本とか飲んでいたからなー。夜だけで。昼間もお茶替わりに欲しくなって飲んでてさ。最後は、なんか虫が体中這うような幻覚とか見えてきて、終わった。」

 

 「お酒ってあんまり飲みすぎると気持ち悪くなりません?飲みすぎたらしばらく飲みたくない、みたいな」

 

 「それがさ、おれアルコール強いほうだったし、慣れっていうのかな?もう飲んでないと酔っぱらってないと何にもできなくなちゃった感じ」

 

 「職業、元黒服やっていたっていったけど、ここはいる前は何してたの?」

 

 「ま、いろんなこと。ビジネス系も誘われて手出して、あんまり詳しく言えないけれど、結構稼いだんよ」

 

 「違法系ですか?反社絡み?」

 

 「ぶっこむねー。藤田さん、反社(反社会的勢力。暴力団などがそれに入る)とかよく知ってるね。何してるの」

 

 「普通の会社員ですよ」

 

 私はマスコミ勤務というのは入院先で話したことがなかった。普通の会社員やってます、といってそれ以上掘ってくるひともいなかったので。

 

 「ヤクザ絡みじゃないけれど、まーなんていうのかね、違法ではないけれど、脱法、的な?でもさ、結構金稼いでも酒とねーちゃんに消えていくよ」

 

 「ねーちゃんって、キャバクラとかですか?」

 

 「キャバクラとかバカバカしいから行かないけれど、いろんな関係でさ」

 

 「薬物は?」

 

 「あー覚せい剤はないよ」

 

 「じゃ、大麻かドラッグはあり、と。」

 

 「まーねって。おいおい。掘るなよ。藤田さん真面目そうに見えてやるの?」

 

 「私ね、すごくいい子なんです。リスクとベネフィットを天秤にかける。薬物はこのやったらおしまい、カンニングすらしませんよ笑」

 

 「カンニングしたことないの、すげーー笑」

 

 「俺さ、見ての通り勉強できねーし、人間としてはクズで生きてきたわけ。アルコールで体もぼろぼろ、内臓とかやべーよ」

 

 「もっと、自分大事にしていいんじゃないですか。私から見てね、テツヤさん自頭いいと思う。営業マンとかやったら多分いいと思う」

 

 「いいね、見る目あるね、おれいろんなの売りさばいてきた。ま、いわゆる兄貴分みたいなのとかいて、きっとここ出ても使ってはもらえると思うだけど、アルコール止めないといけないんだよな、止めたいと思っているのにやめられない」

 

 「コンビニ入れば、棚にずらーっと並んでますしね」

 

 「そうなんだよなーヤクと違ってさ。アルコールってこえーよ。」

 

 「今回、保護入院だけど、ご家族ではどなたが?」

 

 「かーちゃんだよ。幻覚見えるようになって、かーちゃん殴っちまってさ。警察呼ばれてここ。」

 

 「お母さん大切にしなよ」

 

 「クズみたいなやつだよ。入院するとき、クズからクズって言われたわー。クズに言われてくねーよって言ってやったわ。俺、藤田さんのところの赤ん坊に生まれたかった」

 

 「テツヤさん、そうやって主婦系くどいたりしてきた?笑 いいよ、その代わり、母親、うつで長期入院で出てっちゃうよ」

 

 「でもさ、藤田さんこども嫌いでそうなったわけじゃないっしょ。話聞いてて思うよ。子どもも好き、仕事も好き、家事苦手。でも全部ちゃんとやんないと、でしょ?。俺のカーチャんとは大違いだよ」

 

 「頑張れ、でも頑張んなよ」

 

 ふたりで駐車場を眺めていたが、肩をポンとたたいた。

 

 そして、テツヤさんは、ある日、別れも言わず病棟からいなくなった。なんで退院したのかはわからなかった。