●終わりのない子育ての連続性 寝られない夜と朝の絶望

 

 生後2週間すぎまでは、尿と排便の回数、授乳の分数と足したミルクの量、睡眠、全て事細かに書いていた。その育児ダイヤリーも、3週間を過ぎたころから、空白がめだってくるようになった。

 

 義母から卒業する日が迫ってきている。

 義母には、「お義母さんが、いなくなった後に、ひとりでやっていけるのか不安です」

 そればかりを訴えるようになっていた。私なりのSOSだった。

 

 義母は、

 「大丈夫よ、全部完璧にやろうと思わなくていいんだから」という答えが返ってきた。それ以上でも以下でもない。義母は正しい。

 夫も

 「僕が家事をやるから大丈夫だよ」と言ってくれる。 

 何も完璧にやろうと思ってはいない、最低限のタスク(子育て)を無限に続けていくことが怖いのだ。

 

 朝起きて、朝ごはんつくって、おむつ変えて、

 ムウちゃん(上の子)にごはん食べさせて、

 歯磨きして、

 お着替えして、

 保育園の連絡帳書いて、

 その間に、授乳もして、泣いたら抱っこして、

 準備ができたら、抱っこ紐でルイちゃん(下の子)を連れて、保育園まで送って、

 帰宅したら、ルイちゃんの沐浴をして、泣いて抱っこして授乳してミルクあげて、

 もうお昼になって、お昼寝の間にお夕飯作って、泣いて抱っこして授乳してミルクあげて、あっという間にお迎えの時間になって、

 抱っこして保育園のお迎え行って、なかなかまっすぐ帰らない上の子と散歩をして、

 帰宅して、ごはんをああでもないこうでもない食べさせて、

 赤ちゃんがなるべく寝ているうちに、湯船を嫌がるムウちゃんをお風呂に入れて、

 でもその途中で泣いて、へとへとになって、運がよければそこに旦那さんが帰宅して、

 私はムウちゃんを寝かしつけて、そしてまた永遠に夜がやってきて、また絶望の朝が来るんです。

 

 夜が来るのも朝が来るのも、保育園のお迎えの時間が迫ってくるのも、全部怖くなっていった。胸がスースーするのだ。

 

 よくうつ病患者がいう、この胸がスース―する、これ、経験して初めてわかりました。

 胸に空気穴が無数にあるようなザルよりもっと荒い目の籠のような感じで、入れても入れても感情が通過していく。

 

 文字通りスース―するんだ。

 

●家事支援「野菜は切るだけで味付けは各ご家庭でやってください」の奇怪 

 

 もうすぐ、年末。義母も慣れない二重生活に疲労しているので、生後1か月をまたずに、夫が年末年始に休みを取るのにあたり帰宅するカウントダウンが始まっていた。

 私は、前述(2-4 あまちゃんだった産後支援態勢)した区の「産後支援制度」を、お試しで受けてみることにした。

 義母は週末には自宅に戻っていたので、不在の月曜日の午前中に初訪問。初利用の際には、区の子ども家庭支援センターのスタッフも利同席し、いろんな説明を受けるのがルールだった。

 

 ピンポーン!9時にチャイムが鳴る。この日は、新生児の見守り1時間と家事支援2時間を頼んでいた。

 区のこども支援センターのおそらく50代くらいのベテランスタッフと、委託先の家事代行・ベビーシッター派遣会社のスタッフ(おそらく50代)が2人で訪ねてきた。 支援センターから、区では子育てでこんな支援があるとパンフレットもずらっと並べられたが、全部知っているものだった。

 

 ファミサポも知っていますし、はい、全部いただいたものは知っています。この区には私にこれ以上支援できることは、ないのだ。絶望の波が押し寄せてざわざわする。賭博黙示録カイジ並みだ。

 

 私は、支援センターの方なら、いろんな家庭・母親を見ていると思って、これまで胸につかえていた不安を堰を切ったように吐露した。

 

 「2歳差育児がこんなに大変だと思っていなかった。本当に私でこの大切な小さな命を守って育てていけるのか不安で仕方がありません。」

返ってきた答えは想定の範囲内だった。

 

 「お母さん、ムウちゃん(上の子)をみたら、まったくそんな心配なんていらないの、わかるでしょう。こんなに笑って可愛くて。何も心配することありませんよ。とにかく、赤ちゃんはまだ泣かせておいてもいいんで、上の子優先で、接してくださいね。あとはきょう来てもらっているようなた家事支援を利用したり、ファミサポさんもまた新たに面談して利用されてはいかがですか?生後43日から預けられますよ。もうすぐですよ」

 

 出た、上の子ファースト。胸が更に、ざわっとする。少し涙があふれる。

 

 「ママ、頑張りすぎないでね。お子さんに関することは支援センターでもバックアップできますから」

 

 ありがとうございま・・・ん?じゃ、私のことは?産後の母親の支援は?

 

 支援センター職員が続ける。

 

 「では、私もお時間がありますし、ムウちゃんの保育園の時間もあると思いますので、家事支援に関しての説明をしておきます。藤田さんが主に希望している保育園送迎時の新生児の見守りは1時間まで、がお約束で私的な利用にはお使いになれません。家事支援は簡単なもので、調理に関しては、野菜を切ったりなどはお手伝いできますが、味付けはお母様がお願いします」

 

 え?一瞬、耳を疑った。「味付けしないで野菜切るだけ」って、それ、カット野菜をネットスーパーで買った方が安くないか?家事支援、1時間1000円ですよ、区の補助があるとはいえ。

 

 「え?味付けは自分でするんですか?」

 

 「はい、そのおうちの味付けがあると思いますので」 笑顔の淡々とした答え。

 

 もう腰が抜けた。こんなんじゃ、休まる暇ないじゃん、でももう反論する時間もないので、ルイちゃんを家事代行の女性に託して〈寝ていたのでただ横にいるだけ〉、保育園に出発した。

 

 保育園の送りから帰ると、きっちりと見守りをしていてくれて、もちろん家事はひとつもやっていない。そうだよね、そういう約束だもん。

 

 「何をすればよろしいでしょうか。指示いただければやりますので」

 

 私は、たまっていた洗濯のおたたみをしてもらい、きのう掃除したばかりで全然汚れてもいない床に掃除機とワイパーをかけてもらった。

何事もそのたびに、指示が必要で、ソファにちょっと横にはなったが、眠ることはできなかった。

 

 私が家事代行に望みたかったのは、とにかく眠らせてもらい、その間に沐浴や、食事の準備などしてもらいたかったのだ。

 そういうことか、それをしてもらいたいなら、時給3000円で産後ドゥーラを雇えってことなのね・・。

 

 うちの区の支援にはないメニューだ。

 

 保育園の保活の時もそうだったが、子どもができるまでは、自分が在住する自治体のことなんて考えたことなかった。会社に近いのがいいくらいで住居は選んできた。子どもが産まれることから、バカ高い家賃を払って会社に近い場所に住むことはあきらめ、夫の会社にアクセスがよく、私の勤め先にも40分程度でいける立地を選んでいた。

 

 声を大にしていいたい!子どもを産む予定の人は、今一度自分の住む自治体や、エリアをよく考えておいた方がいい。

 

 特に保育園は、区によっては激戦でフルタイム共働きでも入れないケースもあるし、区でもエリアによって保育園の多い少ないがあって後で涙を飲むことがある。そして、仮に保活を制して保育園に入ったら少なくとも5年はそこにとどまります。

 

 まさか、産後支援のことまでは考えてはいないだろう。そこまでは考えすぎだが、知っているに越したことはない。

例えば、世田谷は、母子ともに宿泊して、産後ケアをしてもらえる産後支援事業がある。

http://www.city.setagaya.lg.jp/kurashi/103/127/446/d00017876.html

 同僚の奥様が使っていたが一般なら5万円を超える宿泊費が、実費5000円くらいで可能なのだ。

 

また、港区では、産前産後の支援専門の産後ドゥーラの補助もしている。私が絶望した「家事支援」とは違う。

https://www.city.minato.tokyo.jp/kosodatesien/kenko/ninshin/shussan/mama-support.html

など多種多様にある。

 

 私が、妊娠時の私に伝えることができるなら、

 

 第1子だったならが、退院後、宿泊型の産後ケアセンターに滞在しろ。全国のリストはこちら。驚くほど価格は高いが価値はあると思う。

https://sango-care.jp/convalescence/

 それかまだ実母がフリーなら実家に行け。(実際そうした)

 

 第2子だったら、上の子をおいて宿泊施設に滞在というのは難しいと思うが、できれば実母、難しいなら義母の支援+産後ドゥーラを依頼する。

https://www.doulajapan.com/

ベビーシッターのマッチング「キッズライン」でも産後ドゥーラを見つけることができる。

https://kidsline.me/contents/doula

 

いずれも思うのが、備えあれば憂いなし。産後は待ったなし。先に先に、調べて連絡を取っておくのがいいと思う。

 

でも最後に言えるのは、どんなに支援で固めても、なる時はなる、産後うつ。不思議なんだ。