【第6回 金闕を焚いて 董卓兇を行ない 玉璽を匿して 孫堅約に背く】


その4『洛陽炎上』(通算61回)


遷都決行当日の朝、李儒が董卓に進言した、
「現在、軍資金も兵糧も乏しい状況です。この洛陽には多くの金持ちがおりますので、奴らの財産を没収いたしましょう。没収の理由は、袁紹とつながりがあるということにすれば良いでしょう。そうして奴らの一族を皆殺しにし、財産を奪えば、我らは巨万の富を得ることができます」
すると董卓が言った、
「ほう。それはおもしろい。あと、こういうのはどうだ?生きた人間だけでなく、死んだ人間からも財産を奪うというのは」
これを聞いた側近たちは、董卓の言っている意味が分からなかったが、李儒だけは嬉しそうに、
「ああ、なるほど。さすがは董卓様。それは妙案ですな」
と答えた。


董卓は、ただちに騎兵5000を派遣して、洛陽にいる資産家たち数1000名を捕らえさせると、彼らの頭に『反臣逆党』と書いた旗をつけ、城外で皆殺しにしたあと、その財産を全て奪っていった。

さらに呂布は、董卓の命を受け、先代の皇帝や皇后の陵墓をあばき、その中の財宝を回収した。

その際、兵士たちは勢いに乗って、官吏や民間人の墓も掘り出し、全ての墓から財宝を奪っていった。


李カク(リカク)と郭汜(カクシ)は、洛陽の民数100万人を駆り立てて、長安へと向かった。

民の行列の間に兵士をはさんで厳しく追い立てたので、力尽きた民は、川や谷に落ちて死んでいった。

さらに遅れがちの者は、後ろに控えている兵士に容赦なく斬り捨てられた。

また董卓は、兵士たちが好き勝手に人の妻や娘を陵辱し、金品を奪うことを許可したので、民の泣き叫ぶ声は天地を揺るがすほどであった。

董卓は出発にあたり、都の門に火を放ち、住民の家々を焼き払い、さらに宗廟や宮殿にも火をかけさせた。

南北の両宮殿は炎につつまれ、ことごとく灰と化した。
董卓は献帝と同じ車に乗り、この光景を見て言った、
「・・・美しい。実に美しい光景ではないか。堕落した漢は徹底的に破壊するべきなのだ。それを我が手で成せるとは、こんな幸せなことはない!」
献帝は恐怖のあまり、じっと目を閉じていたが、
「見るのだ劉協!あれが俺の力だ!」
と董卓にうながされ、やむなく外を見た、
「・・・あれが・・・洛陽・・・」
献帝は移動する車の中から、黒煙を上げる洛陽を眺めて愕然とする。

献帝は悔しさをこらえながらも、あふれ出る涙を止めることはできなかった。


一方、董卓配下の趙岑(チョウシン)は、董卓がすでに洛陽を捨て去ったことを知り、汜水関(シスイカン)を明け渡した。
そこへ孫堅が軍勢を率いて真っ先に乗り込み、劉備・関羽・張飛たちが虎牢関に突入したので、諸侯もそれぞれ軍勢を率いてそれにつづいた。

孫堅が洛陽目指して急進していたとき、遥か遠くで黒煙が天を覆っているのが見えた。
「あれはいったいなんだ?」
「洛陽の方角ですな」
と程普。
「嫌な予感がする。急ぐぞ」
孫堅はさらに進軍速度を速め、一気に洛陽に到達した。

そこで孫堅たちは、目の前に広がる焼け野原に目を疑った。

2、300里もの間、鶏1羽犬1匹見えず、人の住む気配すらない。

誰もここが都洛陽であることが信じられず、その場に泣き崩れる者すらあった。
黄蓋がつぶやく、
「これが・・・わしたちが目指した洛陽なのか・・・?」
程普、
「・・・殿。・・・ご命令を」
孫堅は力強く剣を抜くと、声を上げて兵士たちに命令を下した、
「全軍、ただちに消火にかかれっ!生存者がいれば救出せよ!」
その力強い声に、さっきまで呆然としていた兵士たちは目を覚まし、「おおおっ!」と気合を入れて作業に取りかかった。
孫堅軍の行動は迅速で、火災の被害を最小限に抑え、取り残されていた民の命も救うことができた。
やがて袁紹ら他の諸侯も洛陽に入ったので、孫堅は袁紹に人をやってこれまでの状況を説明し、軍勢を焼け跡に駐屯させた。
この夜、洛陽の夜空は黒煙に覆われ、月明かりが大地を照らすことはなかった。


 次回へつづく。。。


新約三国志演義/坂本和丸著