【第2回 張翼徳 怒って督郵を鞭打ち 何国舅 宦官を誅さんと謀る】


その5『豪傑乱舞』(通算15回)


「孫堅・・・。おお、あの孫堅か!」
朱儁は名の聞こえた英雄の登場に驚き、喜んで迎え入れた。
劉備たちも孫堅を見て、その風采の立派さに感心した。

孫堅もまた、劉備・関羽・張飛の3人を見て、内心只者ではないと思った。


孫堅とその手勢を加えた朱儁軍は、ただちに賊軍討伐を開始する。

孫堅には南門を、劉備には北門を攻撃させ、朱儁自らは西門から攻撃し、東門は賊の逃げ道として残しておいた。


一番乗りは南門の孫堅だった。
「我が名は孫堅!抵抗する者は斬る!」
孫堅は野太い声でそう言うと、孫家代々に受け継がれた名刀『古錠刀(コテイトウ)』を抜き、またたく間に目の前の賊20人余りを斬り殺した。
「さあどうした!雁首並べて死を待つだけか!俺を倒してみろ!」
孫堅の怒号が響き渡る。
賊兵たちは孫堅に恐れをなして右へ左へ逃げはじめる。そこへ賊将趙弘が馬を飛ばして孫堅に突きかかれば、孫堅は趙弘の矛を奪い取り、趙弘を突き刺して馬上から落とした。さらにその馬にまたがって縦横無尽に駆けまわり、賊を殺しまわった。
孫堅は放心状態の賊兵たちを睨みつけながら言った、
「降伏する者は武器を捨てて1歩下がれ!抵抗する者は1歩前へ出よ!」
もはや誰も孫堅に抵抗できる者はおらず、南門に、武器を投げ捨てる金属音が鳴り響いた。


一方、こちらは劉備たちのいる北門。
「関羽推参。まとめてかかってくるがよい」
賊兵たちが一斉に飛びかかって行ったが、関羽の渾身の青竜偃月刀に次々と両断されていく。関羽の攻撃は、まるで自分を中心に大きな円を描いているかのように雄大だった。背後から襲いかかる敵を振り返ることなく両断していく。奇襲は無意味。正面からの攻撃も無意味。もはや賊兵たちは、青竜偃月刀が自分を斬ってくれるのを待つしかなかった。


「おらおらぁっ!張飛参上だ!」
張飛の力任せの蛇矛に砕け散る賊兵たち。張飛は関羽より少し前にいた。それは張飛の攻撃が、ただ前進あるのみだったからである。ときおり背後から襲いかかる者がいたが、張飛は難なくそれを弾き飛ばした。そしてまた前に進んで行く。眼前の敵を砕きながら。

賊兵をなぎ倒しながら、ずしずしと迫る関羽と張飛。迎え撃つ賊兵たちには、それは魔物かと錯覚するほどだった。

「あんな化け物どもの相手ができるか!」
恐れをなした賊将孫仲はたまらず北門から飛び出たが、待ちかまえていた劉備とはち合わせした。
「成敗っ!」
劉備の放った矢に貫かれ、馬からころげ落ちる孫仲。
そして劉備は北門に向かって叫んだ、
「黄巾の民よ、戦いは終わった!武器を捨てて投降せよ!もう戦わなくてもいいんだ!」
劉備は、あえて賊たちを『民』と呼び、降伏するように呼びかけた。それを聞いた賊たちは安堵し、涙を流し、進んで降伏した。


さて朱儁の軍は、逃げる賊軍を追い討って数万の首級と無数の捕虜を得ると、その勢いに乗って南陽方面の数郡を平定した。


戦いを終え、再び全軍が宛城前に集まった。
朱儁が言った、
「劉備、孫堅。よく戦ってくれた。諸君らの功績は私から上奏しておく。では、縁があればまた会おう」
「お世話になりました。いずれまたどこかで」

と劉備。
こうして朱儁は軍を率いて都に帰った。
劉備と孫堅は特別会話を交わすことはなかったが、互いにじっと顔を見合い、それを別れの挨拶とした。自分たちには余計な言葉は無用。共にそう感じたのであった。


 次回へつづく。。。


新約三国志演義/坂本和丸著