本日は当直勤務です。火曜日に当直をすることは滅多にありません。火曜日は外来診療のみで手術は緊急以外には原則参加しない日でもあります。ですから緊急の手術がなければ夕方以降は比較的早い時間に日常業務のdutyから解放されます。
そんなわけで医局のデスクに座ってかつての師匠から譲り受けた産科手術のテキストを読み返していました。これもまた生涯学習のひとつです。当直でもないとなかなか読むことがありませんから。
今までも何度か通読・熟読を繰り返した産科手術のテキストなのですが、本日はふと目が留まった項目があります。それは「切胎術と胎児縮小術」です。
最近の産科手術書ではほとんど取りあげられていない項目です。切胎術・胎児縮小術という名前は紹介されていても具体的な手術手技は紹介されていなかったり、切胎術・胎児縮小術という名前すら記載されていなかったりです。
確かに近年の周産期医療において切胎術や胎児縮小術を行う必要がある場面は滅多にないですね。私自身18年間で2例行ったのみです。
さて本日は「切胎術と胎児縮小術」について簡単に紹介しておきます。妊娠中の方や残酷な手術はパスという方は今回の記事はスルーしてください。
切胎術と胎児縮小術はほぼ同義語です。切胎術あるいは胎児縮小術とは、子宮内または産道内の胎児の一部を切断したり、内臓を除去したりして、胎児を縮小して娩出を容易にする手術、と定義されています。簡単にいうと、胎児を切断しバラバラにして娩出する手術です。
切胎術あるいは胎児縮小術に分類される手術には次のようなものがあります。いずれもかなり残酷な手術でありシェーマや写真で紹介することは憚られますので文字による紹介にとどめます。
1)児頭の縮小
a)穿頭術:児頭に器械で穴をあけ頭蓋内容を除去する手術です
b)砕頭術:児頭を挟圧して圧縮する手術です
この2つの手術は1連の手術で穿頭術に引き続き砕頭術を行い、そのまま児を牽引して娩出します。
2)児躯幹の縮小
a)鎖骨切断術:鎖骨を一方または両方切断し胎児の肩甲横径を短縮して娩出しやすくする手術です
b)上腕切断術:脱出した上肢を肩甲関節で離断し上肢を除去する手術です
c)除臓術:胎児の内臓を除去し胎児の躯幹を小さくして娩出しやすくする手術です
これらの手術は単独で行われることもありますが、先の穿頭術・砕頭術に引き続いて行われることもあります。
3)児躯幹の切断
a)断頭術:胎児を頸椎レベルで切断して2分する手術です
b)脊椎切断術:胎児を腰椎レベルで切断して2分する手術です
これらの手術は単独で行われることもありますが、先の穿頭術・砕頭術に引き続いて行われることもあります。
こうした手術によって生まれた赤ちゃんは見るも無惨な形態になります。手術する側にとっても手術される側にとっても後味の悪い手術になってしまいます。
切胎術あるいは胎児縮小術は、子宮内や産道で死亡してしまった赤ちゃんを帝王切開せずに娩出する手術であり、生命の危険にさらされたお母さんを救うために赤ちゃんを経腟的(帝王切開すら母体にとっては危険である状況)にスムースに娩出する手術です。したがって、周産期医療に関わっていると稀ながらやむを得ずこうした手術を選択しなければならない場面に遭遇します。そうした時のために知識・技術の習得でありイメージトレーニングなのですが、こうした手術はできれば避けて通りたいものです。
抗生剤もよくなり、帝王切開が比較的無害に行えるようになった現在、そして死亡した赤ちゃんや長くは生きられない赤ちゃんにも光を当てたグリーフケアが注目されつつある現在、こうした残酷な手術は前時代的であり廃れゆく手術となっていくことでしょう。しかし、忘れた頃に必要となる手術技術であることも確かであることは経験的に身にしみて分かっています。だからこそ時には手術書で振り返ることがあります。
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