妊娠高血圧症候群の管理〜後編〜 | 産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

 第一線で働く産婦人科専門医・周産期専門医(母体・胎児)からのメッセージというモチーフのもと、専門家の視点で、妊娠・出産・不妊症に関する話題や情報を提供しています。女性の健康管理・病気に関する話題も併せて提供していきます。

入院管理
1)母体管理
 血圧・脈拍・尿蛋白定量(24時間蓄尿で)・血液一般検査・血液生化学検査および凝固線溶系検査等の経時的測定を行って母体の全身状態を精査します。

 血液一般検査では、血液濃縮のため平均赤血球容積が低下するにもかかわらずHb・Htが上昇し、血小板数は重症化に伴い低下します。

 血液生化学検査では、血中総蛋白・アルブミン値が尿中排泄や血管外漏出のため低下し、尿酸値が重症化に伴い上昇します。

 慢性(潜在性)DICを合併するためAPTTPTフィブリノーゲンFDPDダイマーTATATⅢ等の検査を行い、凝固線溶系の異常がないかを確認する必要があります。

 また、肺水腫・胸水貯留・心不全の有無検索のため、心電図や胸部X線撮影を行います。必要に応じて心臓超音波検査(心エコー)や高血圧持続期間の把握のため眼底検査を行います。

 以上を表形式にまとめてみます。
A.一般検査:血圧・脈拍・血液一般検査・胸部X線撮影・心電図・心臓超音波検査など

B.腎機能検査:尿量・尿蛋白定量・総蛋白・アルブミン・尿酸・Na・K・Cl・BUN・クレアチニン・24時間クレアチニンクリアランスなど

C.肝機能検査:GOT・GPT・LDH・総ビリルビン値・脂質代謝系総コレステロール・コレステロール分画・トリグリセリドなど

D.凝固線溶系検査:APTT・PT・フィブリノーゲン・FDP・Dダイマー・TAT・ATⅢ・PIC等

E.眼底検査

2)胎児管理
 胎盤機能低下による子宮内胎児発育不全(FGR)・羊水過少症および胎児機能不全を合併しうるため胎児状態の把握を行うことは必須です。

 胎児超音波検査により、児頭大横径(BPD)・頭部周囲長(HC)・躯幹径(APTD・TTD)・腹部横断面積(FTA)・腹部周囲長(AC)・大腿骨長(FL)等を用いて胎児発育を評価します。各パラメーターを経時的に観察し、その傾きを標準発育曲線と比較します。妊娠高血圧症候群に合併するFGRの多くは、妊娠中期以降のhypertrophic cell growthの時期に障害を受けるため、臨床的には身長・頭部の発育は正常範囲であるが躯幹の発育は遅延し痩せた体型を示すことが多いです(asymmetrical FGR)。しかしながら、早発型では妊娠早期からの障害が起こりsymmetrical FGRとなることもあります。

 超音波パルスドプラー法による血流計測では、FGR児では慢性的な低酸素血症・アシデミアなどのストレスにより、脳・心臓などの重要臓器の血管抵抗を減少させ血流供給の配分を変化させています(brain sparing effect)。低酸素症が形成される初期段階では臍帯血PO2と胎児中大脳動脈MCA)のPI値は正の相関を示しますが、アシデミアが進行すると脳浮腫により脳圧は亢進し拡張期血流が低下するためMCA-PI 値は逆に上昇します。臍帯動脈(UA)のPI 値は、主に胎盤血管床の血管抵抗を反映していますので、FGR児では上昇することが多くなります。児の状態が悪化するとUAの拡張末期血流の途絶や逆流を認めることがあります

 母体子宮動脈(UTA)血流波形は子宮胎盤循環の血管抵抗を反映しており、UTA-PI値の上昇・収縮期から拡張期への移行時にnotchを認めることがあります。

 胎児心拍モニタリング(NST・CTG)は胎児の状態が良好であることを確認する、最も簡便で禁忌のない方法です。しかし、子宮内胎児発育不全(FGR)の児では偽陽性率が高くなります。そこで、ハイリスク症例では、若干煩雑にはなりますが、胎児モニタリング(NST・CTG)と超音波検査所見を組み合わせたbiophysical profile scoreの方が胎児の健康状態を評価するのに最も信頼がおける方法となります。

 以上を表形式にまとめてみます。
A.胎児心拍モニタリング(NST・CTG)

B.超音波検査:胎児発育・羊水量(AFI)・biophysical profile score・子宮胎児胎盤血流測定(臍帯動脈・中大脳動脈・子宮動脈等)

C.生化学検査血中:hPL・尿中E3

 ターミネーション(妊娠の中断・終結)の時期の最終決定は、母体因子・胎児因子を総合的に判断して決めることになります。ゴールは妊娠36~37週ですので、この時期を過ぎたら積極的に分娩誘導(あるいは予定帝王切開)していくことになります。

 ターミネーションの条件についてはhttp://ameblo.jp/sanfujin/entry-10758045287.htmlで詳しく紹介させていただきました。参考にしてください。

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