卵子提供による妊娠について思う | 産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

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 第一線で働く産婦人科専門医・周産期専門医(母体・胎児)からのメッセージというモチーフのもと、専門家の視点で、妊娠・出産・不妊症に関する話題や情報を提供しています。女性の健康管理・病気に関する話題も併せて提供していきます。

 自民党の国会議員である野田聖子さんが米国で卵子提供をうけて妊娠し、来年の2月に出産予定であることは有名な事実です。手記も公開されています。

 卵子提供による妊娠は、女性の卵巣や卵子に問題がある場合に選択されます。第3者から卵子の提供をうけ夫の精子を用いて体外受精を行い、受精卵を妻の子宮内にもどします

 卵子提供による妊娠・出産については皆さんはどのように考えられているのでしょうか?

 提供卵子が必要な患者さんは確実に存在し、世界でも体外受精の約3%は提供卵子によるものであることは事実です。しかし、日本では法制度が未整備な状況であり、提供卵子による体外受精について慎重な立場がとられています。つまり公には認められた方法ではないということです。

 生命倫理の立場からは、第3者が卵子提供する際に使用される排卵誘発剤の副作用の問題母と子に遺伝子関係がないことから将来の家族関係が複雑化する可能性などが議論されています。また、技術的に可能であれば妊娠のためにはどんな方法を用いてもよいのか、という議論もあります。この点は代理母問題もしかりです。

 意外と知られていないのが卵子提供により妊娠した場合のリスクでしょう。私は不妊治療の専門家とも交流があるため、2000年以降これまでに数例の卵子提供によって妊娠した妊婦さんの周産期管理を依頼され経験させていただきました。全例が妊娠後半期に重症妊娠高血圧腎症を発症しています。種々の程度の子宮内胎児発育不全も全例でみられました。そのために全例が36週以前に帝王切開による分娩となっています。一番の重症例は、最近経験した卵子提供により双胎妊娠となった例です。妊娠高血圧腎症・HELLP症候群・周産期心筋症のため妊娠34週で帝王切開となりました。心不全・肺水腫・腎不全・DICを併発し、集中治療室で1週間以上にわたり生死の境をさまようことになりました。何とか一命をとりとめ近く母児ともに退院できそうです。つまり、私自身の経験からは卵子提供による妊娠はかなりのハイリスク妊娠との認識をもっております。

 通常の妊娠では母の遺伝子半分と父の遺伝子半分による受精卵から胎児が成長するので、母にとって胎児は半分は自分であり半分は他人であることになります。これにより、胎児が異物として拒絶されにくくなり妊娠が維持されていきます。これを免疫寛容といいます。しかし、卵子提供による妊娠の場合には胎児には母の遺伝子はなく全くの他人です。そのため免疫寛容がおこりません。これが、妊娠高血圧腎症・子宮内胎児発育不全などの産科合併症につながっていると推測しています。妊娠高血圧腎症・子宮内胎児発育不全が重症化するのも同じ理由を推測します。この点は私の推論であり、学術的に結論が出ていることではありませんので誤解なきようお願いいたします。

 卵子提供による妊娠のリスクがどの程度あるのか正確な報告はありません。日本では卵子提供そのものが公に行われていない背景もあると思います。私の経験した数例がたまたま全例で重症な妊娠高血圧腎症・子宮内胎児発育不全を合併した可能性は否定できませんが、普通に考えると稀なケースで合併症が続いたというよりは卵子提供による妊娠がかなりハイリスクであると考えた方が自然かと思います。

 卵子提供による妊娠を否定するものではありませんが、卵子提供により妊娠が可能であるという光の部分だけにとらわれす、卵子提供による妊娠は妊娠した後がハイリスク妊娠であるという陰も部分も十分に知ったうえで選択してほしいと思っています。

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