546「幸福論、コレへトの言葉、ショーペンハウエル!」ゆるゆるキリスト教雑記帳

ゆるゆるその1
いつも最初にお断りしているのですが、内容は私の極めて独断による見解ですので、ご了解ください。なお、聖書の訳は協会共同訳を使用しています。

デカンショ、デカンショで半年暮らす。後の半年は寝て暮らす。アーヨーイ、ヨーイ、デッカンショ。というのは、デカンショ節ですが、デカンショの意味は、100年前の旧制高等学校、現在の大学の基礎課程では、デカルト、カント、ショーペンハウエルの3人の哲学者の著作を読んで半年暮らしているということだとまことしやかに語られていました。ショーペンハウエルといえば、悲観哲学、厭世哲学の開祖とも言われ、影響を受けると青年は世をはかなんで自殺に走るとも言われていました。ショーペンハウエルは、63年の生涯でいくつも著作がありますが、1851年に書いた「筆のすさびと落穂拾い」随筆集が読みやすく、その中の「処世術箴言」が新潮文庫で「幸福論」と題されて訳されています。訳は橋本文夫です。
この本を読むと、ショーペンハウエルは旧約聖書の「コレヘトの言葉(伝道の書)」からの引用が多く、悲観哲学、厭世哲学を語っているように感じます。「コレヘトの言葉(伝道の書)」は、1章2節の「コレヘトは言う。空の空 空の空、一切は空である。」が有名で、諸行無常の東洋哲学、仏教観に通じるところが多いです。
P352に・・・老人は「伝道の書」にいうように「いっさいは空なり」の精神に徹し、いかに金色に色どられていても、胡桃の中身は全部、空だとということを悟っている。・・・
P353に・・・七十歳にしてはじめて「伝道の書」の第1句(訳注。空の空、空の空なる哉、すべて空なり)が完全にできるようになる。他方老年期にはどことなく怨めしそうな面持が伴っている・・・
とありますが、七十歳を過ぎている私としてはうなづけますね。もともとのタイトルが「処世術箴言」ですから、処世術があれこれかかれているわけで、ショーペンハウエルのいう処世術をよむと、なにが悲観論者だと思えていますね。
P184に・・・一生の総決算を幸福論的な見方に立って引き出そうとする場合、自分の享楽した喜びによって勘定を立てるべきなく、逃れた厄災によって勘定を立てるべきである。・・・
P190 ・・・はなはだしく不幸にならないようにするには、格別幸福になることを望まないのがいちばん確実な道である。・・・
私の父は戦争に駆り出されて、肩と腹に銃弾を受け、九死に一生を得ました。私の母は、大阪大空襲のなか、これまた九死に一生を得ました。九死に一生を得なければ、私が生まれてこなかったわけです。我が家の家訓は、不幸に見舞われるが、不幸中の幸いに終わるというものでした。私の場合も思えば、不幸中の幸いだらけでした。
P215に・・・あからさまに言ってしまえば、友情とか愛とか夫婦関係とか人と人をいかにも密接に結び付けてはいるが、誰しもとことんまで正直に相手にしているのは、結局自分自身だけで、そのほかはせいぜい自分の子どもぐらいのものである。・・・
うーん、嫁さんとは来年金婚式を迎えるが、それなりに密接に結びついてきたように思いますが。自分の子どもは独立して、それぞれ自分の家庭を営んでいるので、結びつき自体あるのか、ないのかよく分かりませんね。

ゆるゆるその2
ショーペンハウエルは、旧約聖書のダビデ王を見習いなさいとして、次のように言っています。
P240に・・・ダビデ王のやり方を真似るが良い。ダビデ王は息子が病床に伏している間は、休む暇もなくエホバに哀願愁訴にこれ努めたが、死んだ後では、「チェッばかにしてやがる」と言ったきりで、もうそのことは考えなかったという話である。・・・
苦しいときには神頼みをするが、神頼みをしてもだめだったときには、神は俺のことをバカにしやがってと言って忘れてしまえというわけだ。処世訓だね。
P244に・・・一日一日が小さな一生なのだ。毎日毎日の起床が小さな出生、毎朝毎朝のすがすがしい時が小さな青春、毎夜の臥床就寝が小さな死なのである。
うーん、味わいのある言葉ですね。小さな一生に対する心がけとしては、
P246に・・・何でも自分の持っていないものを見ると、それが自分のものだったらどんなだろうかととかく考えがちで、そのために不足感が起こってくる。それよりはむしろ、自分の持っているものを、これが自分のものでなかったらどんなだろうと、たびたび問うてみるが良い。・・・
仏教、とりわけで禅宗における少欲知足という教えのことでしょうか。少欲知足について、いちばん重要なものとは何かといえば、ちょっと月並みな答えがかえってきます。
P257に・・・われわれの幸福にとって第一の最も重要なものと見られる健康が大きな価値を持つことは、先に第2章で力説しておいたから、ここは健康の確率・保持のためにどういう態度をとるべきかという一般的な原則を若干挙げてみたいと思う。・・・
というぐあいに、あと一般的な原則を挙げていますが、月並みですね。

ゆるゆるその3
ショーペンハウエルの処世訓は月並みと言ってしまえばそれまでなのですが、いくつか挙げておくと
P273に・・・甘やかせばつけあげる点では、人間はすべて子供みたいなものだ。だから人に対しては寛大すぎても、優しすぎてもいけない。借金を断ったための友を失うことはないが、金を貸せばかえって友を失いやすい。・・
P303に・・・だまされて失った金銭ほど、有利に使った金銭はない。その金銭でとりも直さぜ知恵を購ったことになるからである。・・・
P305に・・・「世界を支配する要素が三つある。分別と力と運とがこれである。」と古人がいみじくも言っている。私は最後に挙げた運という要素がいちばん物を言うように思う。・・・
最後は、「運次第」かよと言いたくなるのだが、「運次第」を「神様のみ心次第」というように考えれば、ショーペンハウエルの言う通りかもしれない。でも、「運次第」というのが、「空の空」の意味なのかもしれませんね。