東京で働いていると、夜が本当にあっという間に終わる。

気づけば終電が近くて、コンビニで済ませる夜ごはんにも慣れてしまった。
家に帰るころには、考える気力も残っていない日が多い。

でも、たまに少しだけ丁寧に過ごしたくなる夜がある。

その日も仕事帰り、新宿のスーパーに寄った。
閉店前の静かな店内を歩いていると、お肉売り場で群馬牛が目に入った。

高級店で食べるような特別なものじゃなくて、普通にパックされたお肉。
でも照明の下で見るサシが綺麗で、なんとなく疲れた日に食べたくなった。

少し迷ったあと、結局カゴに入れた。

深夜近くの新宿は、まだ人が多い。
でも家に帰ってドアを閉めると、一気に静かになる。

小さいキッチンでお米を炊いて、フライパンをゆっくり温める。
群馬牛には、あまり手を加えないほうが好きだ。

塩と黒胡椒だけ。

それだけで十分だった。

熱したフライパンにお肉を置いた瞬間、静かな部屋にジュッという音が広がる。
その音を聞くだけで、少しだけ気持ちが落ち着く。

夜中の料理って、不思議だ。

誰かのためじゃなく、自分のためだけに作る時間。
SNSに載せるわけでもないし、映える盛り付けをするわけでもない。

ただ、お腹を満たすだけでもない。

疲れた一日の終わりに、「ちゃんと自分を扱う」みたいな感覚に近い気がする。

窓の外では、まだ新宿の明かりが見えていた。
少し雨も降っていて、車の音が遠くで聞こえる。

そんな中で食べる温かいご飯と群馬牛は、不思議なくらい安心する味だった。

日本に来る前は、高いお肉って特別なレストランで食べるものだと思っていた。
でも今は、こういう静かな夜に家でゆっくり焼いて食べるほうが好きかもしれない。

派手じゃないけど、ちゃんと満たされる。

忙しい毎日の中で、そういう時間って意外と大事なんだと思う。

たぶん明日もまた仕事で忙しい。
朝になれば、満員電車もメールも変わらず待っている。

それでも深夜のキッチンで群馬牛を焼いた時間だけは、少しだけ特別だった。

 

 

 

 

 

 

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