久しぶり、相談員の話である。
以前、ハローワークの相談員をしていた時のこと。
もう7-8年前の話になってしまう。
毎朝、必ず、求人票を見に来る50代の男性がいた。
いかにも、企業の経理部門のベテランのような雰囲気の人である。
だいたいハーフコートを着て、いかつい顔をし、眼鏡をかけたまま、ニコリともせず、求人検索機を見ていく。
そして、受付のメンバーに声もかけることもなく、そのまま帰っていくのである。
残念だけれども、このようなタイプの人は、再就職先がなかなか見つからないことが多い。
それまでの勤め先で行っていたこと、そして、自分の人生、すべてが一緒くたになったままなのである。
自分が、勤めていた経理の会社で、若い頃から教わったままの行動を取り続けているのである。
謹厳実直、脇目も振らずに、他のことには一切関わらず、必要と感じたことのみを集中して実施する。
邪魔する者は、どやしつけても構わない。
たぶん、教えた先輩たちは、そのまま、定年を迎えるまで勤務を続け、しばらく子会社で働き、何年か後に契約満了となって、病気になって70前後で亡くなっていたのである。
しかし、これからの時代は違う。
まず、会社は、定年まで面倒を見ない。
途中で解雇となる。
でも、この人が、今まで企業から教わって来たと思われることだけを、ハローワークに来て繰り返し続けるのである。
「企業の中の駒」として扱われていた時と同じままで、次の職場を探している。
ただし、次の企業は、そんな人材は欲しがらない。
自分の能力がどれだけその企業で役に立つかをきちんとアピールできる人を採用する。
高齢でも、若年でも、そこは変わりない。
ある時、この男性に語りかけた職員がいた。
案の定、この女性に対し、自分の思いのたけをぶつけてきたそうだ。
自分がどれだけ企業に貢献し、どれだけ頑張って来たのか、それがお前たちに分かるか、という内容である。
「企業の中の駒」であったことをきちんと自覚すること。
そして、次に職場に求められることを適切にアピールできるようになること。
今から思えば、この人に必要なことは、こんな点だったのだと思う。
この職場を離れて、しばらくしてから仕事を探す立場になってハローワークに行ったことがあった。
その時、この男性がいた。
同じ状態、同じ姿で、同じように怒ったように検索機を叩いていたのである。
この方が無事再就職できたことを心より祈るばかりなのである。