マンガ「はだしのゲン」の作者、中沢啓治さんが亡くなってしまった。


しばらく前から、目が見えにくくなり、漫画家を引退し、原画をすべて広島の平和記念資料館に寄贈していたと聞いていた。


病気も進んでいるという話もあったので、大変に心配していたので、残念である。


2011年に新しくなった広島の野球場で、始球式のピッチャーをしたことも記憶に新しい。

(「おっ、あいつ、中沢のところの啓治じゃないか。」とスタンドにいるおじさんたちが噂していたら、面白いのだけれども、その世代は、みんな亡くなってしまったはずだ。)


さて、マンガ「はだしのゲン」は、平和教育の資料として読まれることが多いそうだ。

あまりつらい話のため、無理やり読まされて、嫌いになったという人もいると聞いている。


ちょっと、残念である。


このお話、「中岡さん家族のクロニクル(年代記)」として読むと、興味深い。

一つの家族の元に、人間の手によるとんでもない災厄が降りかかる。

その災厄に対し、いかに立ち向かったのかと言うストーリーでもあるのだ。


頑固で一徹な父、心優しい姉、腕白な弟、そして、子どもたちを護って強く生きなければならない運命の下、明るくふるまう母、生まれたばかりの妹、愛国心を信じ予科練に行く上の兄、疎開に行き家族と離れ離れになる下の兄。

そして、性格がひねくれてしまった江波の清二さん、クソ森や仲間たち。

この作品、それぞれの上に降りかかる運命に対し、皆が負けずに生き続ける生活史なのである。

一人一人の生きている姿が、今でも生き生きと心の中に残っているのである。


少なくとも、このマンガがなければ、江波中学校の敷地が敗戦まで軍の射撃場で、原爆が落ちた時に、たくさんの遺体を焼いた場所だなんて、誰の記憶にも残らなかっただろう。


あるいは、「核戦争後の荒廃しきった都市の中で、自分の知恵と才覚で逞しく生き続ける少年たちの冒険譚」として考えると、実は少年ジャンプの伝統と栄光のある作品群に位置づけられるマンガといえる。

「北斗の拳」のケンシロウのさすらう荒廃した世界の原点とでも言おうか。


とにかく、娯楽作品として、面白いマンガとして、「はだしのゲン」は読まれてほしいのだ。


さて、中沢啓治さん、今頃、父さんや母さん、優しい姉さんや活発な弟、元気な妹さんに再会できたかな。