『これって使えそう。歌の歌詞は実生活で使える言葉でしょう?』
そう、彼女に言われてドキドキしながら「キスだってしよう」と歌ってみる。
でも、即座に『それは使えない』と言われて傷つく。
それを言うなら「ん?溶けようだって言わない。
俺たち溶け合おうっていうのは変だ」
こっちのほうがよっぽど変だ。『変態になっちゃう』
キスも抱き合うも普通に使えるだろうに・・・と思いながらも
「歌詞が激しい」と言いながら見た彼女は時間を気にして時計を見ていた。
『でも、意味がわからないから・・・』
俺と話しをしているのに、もう帰ることを考えて時間なんて気にして・・・
「俺の好物なんだ」少しでも時間を引き伸ばすために無造作にせんべいを渡す。
「本当に帰るの?」まだ彼女に秘密の個人的ミッションも果たしていない。
『帰るわ』彼女が期待した目で俺を見ている・・・
なんて言うべきか・・・「ここに住め」
帰って欲しくなくて、思わずまたそう言ってしまう。
『誠意がないわね』そう彼女に不満そうに言われて。
欲しかった言葉ではないらしい。本心なのに心外だ。
彼女に早くミッションを言い出さないと・・・
これでは色気も何もない絵で終わってしまう。
折角彼女とレコーディングスタジオにいるんだ。
俺だって他の夫婦のように彼女との共同作業をしてみたい。
『後7分したら行くわ』ダメ押しで現実をつきつけられて焦る。
さっき彼女がつぶやいていた事を言ってみる。
「フューチャリングでも・・・」頭にあったとは言え、苦し紛れに口から出た。
『日本語は難しい』と即座に彼女に断られて「英語は?英語・・・」
彼女にさっき『(キスだってしよう)それは使えない』
と否定されたのが悔しくて。
「キスだってしよう・・・そう言ったらフューチャリングで、ア~~~っ」
肯定して欲しい。笑う彼女。何が何でも言わせたくなった。
『歌詞は?』そう、聞いてきた彼女に
「歌詞じゃないよ。感嘆詞っていうか・・・」
『なるほど、感嘆詞ね』少しやる気になってきたか?
「だから、やろう」期待して彼女を見るけど、なかなか返事をしない彼女。
「ディレクターさえよければポイント部分だけでも・・・」更に押す。
『じゃあ・・・聞いてみて』やっと彼女からその言葉を引き出して、
必死でディレクターに日本語で説明する。
「レコーディングだけ・・・」『するの?』「はい」
ディレクターが頷くのに勇気づけられたのか『録音してすぐ消してもいい』
そう言う彼女の言葉を日本語で繰り返す
「レコーディングシテ・・・スグナクナチャッテモイイ」
頷いて、どうぞと言うディレクター。驚いた顔の彼女。
彼女は思ってもいなかったようだが、番組からは元々こう言う事態も
想定して話しを通してあったはずだ。
彼女さえやる気にさせれば現実になると思っていた。
「水飲んで」せんべいを食べていた彼女に、確信犯で
自分の飲んでいた水のボトルを差し出す。
「ちんちゃ!セクシーな感嘆詞で」
追い打ちをかけて言いながら渡すと、彼女はそのまま水を受け取って飲んだ。
やった間接キスは済ませたぞ。それを確認して目を離した隙に
横からゴボゴボという音が聞こえて、見るとうがいをしている彼女。
「うがいは違うだろ・・・」色気もクソもない・・・
『ん?喉を解さないと』そう当たり前のように言われて
「あぁ。そうか」と焦る。俺が意識しすぎか。そりゃそうだよな。
「感嘆詞なのに?かすれた声の方がセクシーだよ」
そう言いながら、さりげなく彼女の飲んでいた水を手に取った。