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神戸学校講義:日本放送協会コンテンツ制作局チーフ・プロデューサー 藤並英樹さん
”エンタメで世を耕す ~大河ドラマ「べらぼう」制作秘話”
◆講義主旨
「べらぼう」では「江戸のメディア王」とも呼ばれる蔦屋重三郎の半生が描かれ、当時と現代の社会情勢の相似性や、浮世絵・黄表紙といった娯楽作品に表現された江戸文化の豊かさ・華やかさが多くの人に再発見されています。また、「筆より重いものは持たない」重三郎を主人公に据えた江戸中期の物語は、これまでの歴史ドラマとは一線を画すもので大きな話題となりました。
本作が生み出された背景には、藤並さんが考える「公共放送がエンターテイメント作品をつくることの意義」があります。
NHKでプロデューサー業を続けてきたからこそ芽生えた大切にしたい思いや「べらぼう」誕生秘話などを伺える貴重な機会です。
◆神戸学校とは?
阪神淡路大震災をきっかけに始まった。受講料は、あしなが育英会を通じての寄付になる(こうした御話を伺えた上に、寄付させてもらえるとは。。)
◆講師:藤並英樹さん(チーフ・プロデューサー)
📚️プロデューサーというお仕事とは
NHKのばあいは、企画に始まり脚本家との台本づくりも含め、物語の骨格を担う。制作現場の管理・諸手配。番組の中身と制作環境の設計。なにかあれば褒められ、なにかあれば怒られる立場。見えるところ見えないところの統括管理を担う。
📚️ご経歴
生まれ育ちが神戸。大学時代まで過ごした。大学の広告研究会でイベント企画・運営を経験。集団で何かを創ることをやりたい想いから、2002年にNHK入社。地方局の札幌に5年間赴任。一次産業に関わる人々・北海道に居続ける人々への取材。人口数百人の町では、『のど自慢』は歓迎されお祭りのようになる!その体験から、地域を元気にする番組を作りたい。エンタメを通じてご当地が盛り上がる、希望につながる「日本のインフラ」のようになりたい という想いが生まれた。
その後、大河ドラマ・朝ドラという、地域に根ざした物語・所縁あるひとを描く作品に携わる。大河と朝ドラを往復しながら関わるようなかたちに。『大奥』と『べらぼう』は、舞台となる時代も制作時期も重なってた。『大奥』は大河ドラマのスケールで制作されたドラマ10。その視聴者も『べらぼう』を楽しんだ。
【余談】
『大奥』と『べらぼう』、ともにSNS向きのタイトルではない・・!ハッシュタグのルールとして、ひらがな4文字と漢字2文字はダメ。。なので、#ドラマ10大奥 #大河べらぼう として、放送開始前にスタッフがTL上でお知らせした
📚️『べらぼう』の制作背景
もともと時代劇が大好きだった。これまでに関わってきたのは、『軍師官兵衛』『おんな城主直虎』『麒麟がくる』といった、戦国時代を舞台にした大河ドラマ。前年に『どうする家康』もあったので、それ以外の時代を・・というのが発端。
2025年は、ラジオ放送開始から100年。文化功労者としての蔦屋重三郎に注目。藤並さんご自身が大学時代に、絵画や芸術学に触れていたというのもあった。企画書(2022年末)は、A4で一枚! 学生時代に書店でバイトをしていたこともあり、書評・書籍の帯・映画予告編のまとめ方を参考にしている。「観てみたい!」と思ってもらえるように書く。キャッチーな文章を頭に。「面白そうだ」と思ってもらえるように。「なぜ、今なのか」を明確に。
企画として打ち出したのは、”Cool Japanの原点としての、200年前に花開いた江戸時代の町民文化。蔦重・写楽・北斎のスタートアップ企業話”。練り直していくなかで、町民だけでなく政治を入れろ、と。侍も出していこうという、出世競争を描くなかで田沼意次の軸が生まれた。蔦重との両輪で走ることになる。
📚️時代の特異性
大河ドラマでこれまで描かれてこなかった時代。ただ、時代劇で描かれてきた時代でもある。”時代劇の復興”も念頭にあった。町民文化と吉原に関しては、企画書時点で明記していなかったそう。吉原を本腰で描くことにしたのは、蔦重のルーツ・アイデンティティーであり、活動基盤・経済基盤であったことから。 かなりの話数を使い、瀬川も登場させ、吉原の光と闇を描いた。結果的に「攻めてる」或いは厳しい意見もあったが、様々な価値観が存在すること・文化が変容していくこと も、ラジオ放送100年という節目での問いかけとして、必要なものと考えていた。
📚️エンタメは世を耕す
吉原・日本橋・江戸城内を描く、華やかで文化的に豊かな時代。苦楽のなかでものづくりを楽しむことは、人ならではの醍醐味であり、ワクワクする。 現代の私たちにも、ダイレクトに通じるもの。クリエイティブに携わる人たちからも反響があり、嬉しかったそう。
藤並さんが以前に携わった『麒麟がくる』は、コロナ真っ只中で制作が止まった。エンタメは不要不急なのか?いや、そうではないはずだ、という確信。文化が社会的に作用する ことも描きたかった。エンタメが世の中を救う!
※34話 コメ不足打ちこわしは実話。「銀が降る」はフィクション
田沼が去ったあとの松平時代に、エンタメは統制を受ける。現代とリンクするエピソードが多く登場。当初想定したわけではなかった。脚本が最後まで完成する前に、撮影は並行して進んでいる。台本の半分以上は、放送開始後に書かれたもの。「おととしの米はあるぞ!」の台詞を書いたら、ちょうど現実では備蓄米の話題に。。歴史は繰り返す、同じ過ちを繰り返さないために、歴史を学ぶことが必要。危うさを描く。ドラマを通して知ってほしい。
📚️こぼれ話いろいろ(1)
・森下さんは筆が早い脚本家だけど、「登場人物が多くて書ききれなくなった」「写楽どうする?」といった試行錯誤が続いた。蔦屋重三郎は世間一般でほとんど知られてない、という点をふまえて始まった。
・タイトルにある『~蔦重栄華の夢噺』は、黄表紙からの発想。この大河ドラマそのものが、蔦重が創った黄表紙ということにしたかった 。「さすがにハイブローすぎる」となり、蔦重の”べらぼう”な人生から『べらぼう』に最終決定。『蔦重栄華の夢噺』は副題として残した。発表前ギリギリに決まった・・・!
・第一話冒頭 火事のシーンどうする?
スタジオとロケ4箇所で分けている。撮り終わったのは2024年10月末!現在は、スタジオ内で火が使えない(官兵衛の頃は可能だった)。火事撮影が出来る場所探し・・大河ドラマ一作目は京都の撮影所を使っていたこともあり、京都でどうか?と。京丹波市で地元消防団も協力のもと、本当の火を使って撮影。
・東宝スタジオに建てた吉原のセット。ロケ地の選定・安全面・ナイトロケの代替としての技術検討など。。収録スケジュールの立て直し。臨機応変に対処していく(ノベライズや書籍と変わってるとこは、そういうこと・・)。「基本的に、順調に行くはずがない と思っている」 。コロナ中の『麒麟がくる』の経験が大きかった。「事前にできるだけの準備をして、何かあったら手を打つ。ノープランでは臨まない。焦ってもダメなので、諦めるものは諦める」。段取り力は、仕事に必然。監督は最前線。プロデューサーは全体を観る仕事。 どこを補強するかなど。
・版画の職人さんがどんどん減ってるなか、制作協力の版画会社から「ドラマを通じて新しい人が3~4人入った」と。エンタメを通じて世の中が動いたと思えて嬉しかったそう。 ”書をもって世を耕す”。
📚️『べらぼう』で描かれた謎
写楽そのものではなく、「写楽の謎」を描いた。伝承・説を紡いだ。大河ドラマはあくまでフィクションだけど、絵空事ではなく、「この史実とこの史実のあいだに、こんなことがあったら面白いよね」と。どういう線でつなごうか、と。写楽の正体ではなく、「なぜ写楽をやったのか」を届けたかった。蔦重が世の中にエンタメを仕掛けていく、その理由とやりかた。そのために「謎」を創っていった。
📚️蔦重 とは
森下さん曰く、「蔦重は、覚悟と責任の人」。誰もやらないなら自分がやる。 それを考え方の軸にしている。史実の蔦重もそういうひとだったのではないか。彼が亡くなったときの墓銘碑に書かれた内容。人たらしでもあり、彼を慕って皆が集まる。ちなみに、屁で終了するのは想定外だった 。屁のグルーブ感。
横浜流星さんも座長然というよりは、蔦重と同じく「みんなでやろうよ!」という魅力をもった人だった。藤並さんにとっても、蔦重というプロデューサーの生き方そのものが、プロデューサーとして大きな学びになった。 動いてもらうのは他の人(脚本家・俳優・スタッフ)。人に動いてもらうにはどうするか。心地よく健康に安全に働いてもらうにはどうすれば 、というお膳立てに尽きる。
📚️質問コーナー
・キャスティング
声優さんが多かったのは、時代劇は言葉が難しいので、滑舌が良く、聴き心地がよい声 を必要としていたから。群衆シーンが多かったのもある。声でお芝居できる人。また、「ギャップを狙う」キャスティングもあった。ミュージカル俳優の古川雄大さんは物静かなかたなので、中学生みたいな山東京伝を。小芝風花さんは可愛らしい役柄が多かったので、気っ風のいい瀬川を。
・再放送
NHKに要望を出そう!
・最終回の「拍子木」は、最初から決まっていたのでしょうか?
藤並さんご自身のなかでは、決まってなかった。大原監督や脚本の森下さんにはあったのかも?大河史上、最多幸のラストシーン。 あんなに幸せな最期は無い。墓碑銘には書いてあるので、あのゴールを目指した。屁も当初はあんなに盛り上がる予定はなかったけど、最終的に「屁の魂呼ばい」が生まれた。大河と朝ドラは、生き物。創り手だけではなく、視聴者とも一緒に創っていくもの。クランクアップは、本当にあのシーンだけを撮った。クランクアップに全員集合!というのも異例 で、クランクアップ写真が全然終わらなかった(笑)。
※これは私自身からの質問にお答えいただいたもの。最終回は「屁の魂呼ばい」で、自分が泣いてるのか笑ってるのかもうわからない状況のなか、拍子木の音で、もう一段「!!」となったラスト。その真相が伺えて嬉しかったです。ありがとうございました
📚️こぼれ話いろいろ(2)
・大河ドラマや朝ドラは、町おこしや御当地人物の再発見という意味合いもある。『べらぼう』をきっかけに、田沼意次のイメージが見直された。『べらぼう』に登場した自治体同士が自発的にスタンプラリーしたり災害時に助け合ったりするなど、とても嬉しいことがあった。
※『逆賊の幕臣』小栗忠順も、知名度とか、パブリックなイメージが変わるとか、今から楽しみですね。。タイトルからしてもう秀逸。
・安全で健康な制作現場でないと、先がない。視聴者側も本編の考察だけでなく、制作過程も目を向けている 。今作も、インティマシー・コーディネーターが入ったりなど。
・検校は、もともとのイメージはかなり年配だったけど、今作では史実の35歳に寄せて、しかも美坊主になった!金も魅力もある、蔦重どっこも叶わないやん!みたいな。
・48話かけて人の人生を描けるスケール感が、大河ドラマ
・放送中に「出たい」と言ってくれる人たちもいた。面白いと思ってもらえてやり甲斐に感じた。太田光さんは、喫煙所で横浜流星さんに「出たい」と言ったのがきっかけ
・厳しい情勢とエンタメについて。東日本大震災発生時の『てっぱん』。放送していいのかという葛藤と、朝ドラが日常を届けることの価値と。コロナで休止した『麒麟がくる』も再開時は歓迎された。「不要不急」ではないエンタメ
📚️最後に・・大切にしていること
たまたまの出逢いを大切にする 。本屋さん、新聞、ラジオ、煮詰まったら歩く。たまたま見聞きすることが必要。現代はスマホで自分の関心の高いものは多く得られるけど、自分が興味なかったこと・得ようとしてなかったことといった、「たまたまの出逢い」が自分にとって全く違う世界を開いてくれる。
※タイパコスパで考えて「自分にとって必要か」を自分で制限しちゃうのは、実はとてももったいないことだし、自分で自分をどんどん狭めちゃいますよね。。
貴重な御話をありがとうございました!『べらぼう』、円盤で2026年も観てしまう!