つづき

シニアが活躍する社会に必要なもの

 昭和の高度成長期では労働力は有り余っていました。

 その頃は、増え続ける労働力を収容するための会社が不足していました。

 ある程度の年齢に達した方には、退職して、若い方に席を譲る、という定年制は、この時代には非常にフィットしていたのだと思います。

 しかし、今はそのような状況ではありません。

 労働力は減少の一途をたどっています。労働者人口は減っています。

 労働力の確保、という観点から、定年制が今の時代に相応しいとは到底考えられません。

 また、一定の年齢に達する人に対して、一方的に雇用契約を打ち切る、という点では、定年制は年齢差別です。

 やりたい人は仕事を続ければいいし、続けたくない人は退職すればいい。

 そんな自由度が、今後は必要になってくると思われます。

 

 昭和中頃までは、定年制を導入している企業は55歳での定年退職が一般的でした。

 しかし、社会の高齢化に伴い、厚生労働省は1994年に定年年齢を60歳以上とすることを義務付けました。

 更に、2013年には65歳までの雇用継続措置が義務付けられ、2021年には70歳までの就業機会確保が努力義務となりました。

 しかし、2020年に厚生労働省が実施した「高年齢者の雇用状況」の集計結果によると、定年制を廃止した企業はわずか2.7%。

 定年制はまだしばらくの間は、企業の中では主流の制度であり続けるでしょう。

 

そのことは悪くはないとは思います。

 労働人口が減っていますので、外国人労働者を雇用するか高齢者に働いてもらう、ということは、当然の流れだと思います。

 

 ただ、再雇用制度のデメリットは、一回退職することを前提としている、という点です。

 再雇用制度を利用すると、正社員ではなく契約社員など雇用形態が変わることが多くなり、それにより、勤務日数や賃金などの労働条件が、正社員時と比較して悪くなってしまうのです。

 頭から再雇用制度を否定するわけではありません。

 しかし、時代の流れに沿うように、もう少しいいかたちで高齢者にも仕事を続けて頂く、という制度に移行していくことが必要だと思います。

 

それが自然な流れだと思います。

 定年制は、退職するまでの従業員の人生を縛り付けるようなもののように感じられます。

 ある程度の年齢まで働くと、退職金や企業年金が出る、などのメリットがあります。

 そのため、日本では、途中で会社を辞める、転職をする、という選択肢を選ばない人が多い。

 定年制は、人材の流動を止めてしまっているのです。

 若くて元気のあるうちに、スパッと会社を辞めてやりたいことにチャレンジする。

 定年制は若者のチャレンジの機会を奪いかねない。

 若者のチャレンジこそが、社会の成長の原動力です。

 つまり、定年制により、社会の成長が止められてしまっている可能性があるのです。

 また、一つの企業で働き続ける人たちは、「勤め上げる」ことを目標にしてしまっているのではないでしょうか。

 自分が本当は何がやりたいのか、何に向いているのか、など考えることもなく約40年働き、定年を迎える。

 すると、退職後の自身の生きがを見出せなくなってしまうのです。

 昨今では「退職うつ」「定年うつ」という言葉が心療内科分野で使用されることもあるようです。

 

 若者も、高齢者も、中年も、誰もが自由に職業を選び、生きがいを持ってやりたいことができるような社会の制度設計が必要です。

 内閣府が発表している「令和4年版 高齢社会白書」によると、2021年10月1日時点で日本の総人口の中で65歳以上の人口が占める割合は28.9%。

 この割合は、今後も増え続けることが明らかです。

 定年制を続けていれば、多くの人が社会から隔絶された立ち位置に置かれてしまう。

 これでは、日本という国の繁栄は望めません。

 

つづく