◎奥山篤信の映画批評アメリカ映画154<ジョジョ・ラビット 原題JOJO RABBIT>2019 | 護国夢想日記

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 日々夢みたいな日記を書きます。残念なのは大日本帝国が滅亡した後、後裔である日本国が未だに2等国に甘んじていることでそれを恥じない面々がメデアを賑わしていることです。日本人のDNAがない人達によって権力が握られていることが悔しいことです。

◎奥山篤信の映画批評アメリカ映画154<ジョジョ・ラビット 原題JOJO RABBIT>2019  月刊日本1月号より
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~現代社会で最も恐ろしいのは<思考停止>それは<人間の善悪の倫理観に立ち戻ることをしない人間の恐ろしさ>ハンナ・アーレント

 ユダヤ人の末裔であるタイカ・ウイティティ監督が「ユダヤの怨念を絶対に世界が忘れてはならない」との執念で、

 

 

老若男女に理解しやすく描いた映画で、漫画的な手法はなかなかのものだ。

 

 

 アーリアン民族至上主義を掲げるヒトラーのナチスによって、ドイツ国民は魔法にかけられたように、ナチスを〈民主主義的〉に選んだ。

 

 

人間の弱さからくる偶像崇拝は、その後も、スターリン、毛沢東、その他排他的世界の悪とも言える20世紀の独裁政権を生み出した

 

 

 偶像崇拝とは、人間の宿命かもしれない。

 

 

旧約聖書系の世界の三大宗教も、建前として偶像崇拝を嫌悪するが、実は客観的に観察すると、

 

 

結局、それらも偶像崇拝としか言えない自己矛盾があるのだ。

 

 

人間は弱い存在だからこそ、常にオールマイティのものを作り上げ、
それを政治利用することで世界の人類史は真実として存在する。

 

 

 この映画が描くヒトラー・ユーゲントは、1926年に設けられたナチス党内の党青少年教化組織だが、

 

 

1936年の法律によって国家の唯一の青少年団体(10歳から18歳の青少年全員の加入が義務づけられた)となった。

 

 

 肉体の鍛練、準軍事訓練、祖国愛が、民族共同体の一員である青少年に集団活動を通じて教えられた10歳~21歳の女子グループは、
1939年には800万人を擁する集団へと成長した。

 

 

 動物を殺戮する手ほどきをするような、この組織の恐ろしい訓練は、人間ですら平気で殺せる青少年を育てたのだ。

 

 

この映画の訴えるポイントはそこにある。

 

 

 この様に意図的に若者をヒトラー崇拝に育てる悪の道は、同じくポルポトや文化大革命、それに過激派の支配する中東・アフリカ諸国でも見られる。

 

 

 平和ボケした我ら日本国民は、その点だけに嘔吐感を感じて、全体像を見失う思考停止が始まるのだ。

 

 

この青少年を利用する悪だけをクローズアップすることは問題の探索には繋がらない。

 

 

問題は、監督が意図したこのデフォルメ化より
真髄はもっと別のところにあると考える。

 

 

 ヒトラーを崇拝した近衛文麿元首相がヒトラーに扮装してはしゃい事実などは程度の低い漫画でしかない。

 

 

本質は、ドイツ民族が魔法にかけられた様なリアリティがどこにあるのかだ。

 

 

ヒトラーは、20世紀の有数の世界的哲学者マルティン・ハイデガですら陶酔せしめた。

 

 

 戦後ハイデガーはナチスとの関係で叩かれたが、愛弟子のユダヤ人のハンナ・アーレントのお陰で救われた。

 

 

アーレントはアメリカに亡命して華々しく活躍していたからだ。

 

 

なみに、この2人の奇妙な不倫関係は週刊誌的興味を乗り越えた興味をそそる。

 

 

 「ナチスに近づいたのは共産主義からドイツを守るためだった」と屁理屈を捏ねていたハイデガーに対し、

 

 

アーレントは代表作『全体主義の起源』の中で、ナチも共産主義も同一線上に置いて批判しているのだ。

 

 

 ハンナ・アーレントはヒトラー親衛隊のアイヒマン裁判を傍聴して以下のように述べた。

 

 

 「アーレントはアイヒマンを単なる〈平凡な男〉〈役人気質〉〈輸送のスペッシャリスト〉として、アイヒマンが抗弁するように、

 

 

〈上司の命令に忠実に従ったもので、単なる命令の遂行者〉の立場を見て、ナチスの悪魔のような深みのある悪ではないと見た。

 

 

 まさにbanality of evil(陳腐な悪)であり、現代社会で最も恐ろしいのは〈思考停止〉それは〈人間の善悪の倫理観に立ち戻ることをしない人間の恐ろしさ〉だとした」

 

 

 まさにアーレントは鋭く、ナチスの本質、いや人間の弱さの本質をアイヒマンを通じて見通していたのだ。

 

 

人間の狂気は、実はこの平凡な悪であり、

 

 

今も変わらずに人類の全体が、このような偶像崇拝に理性や知性を抜きにして溺愛してしまうことが恐ろしいのである。

 

 

2020年1月17日(金)より全国公開