【知道中国 1775回】――「實に亡國に生まれたものは何んでも不幸である」――釋(7)  | 護国夢想日記

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 日々夢みたいな日記を書きます。残念なのは大日本帝国が滅亡した後、後裔である日本国が未だに2等国に甘んじていることでそれを恥じない面々がメデアを賑わしていることです。日本人のDNAがない人達によって権力が握られていることが悔しいことです。

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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1775回】            
――「實に亡國に生まれたものは何んでも不幸である」――釋(7)
  釋宗演『燕雲楚水 楞伽道人手記』(東慶寺 大正七年)


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 旅は一気に洛陽へ。道行く人に名所を尋ねたが「皆無いとか知らないとか云ふて不得要領であつたが、全く無いらしい」。

 

 

そこで「日本の京都奈良の樣に昔は必ず多く存在してあつたに違ひないが、國の惡政や、亂戰を重ねた結果國民が疲弊して、美術に保護を與へる餘猶もなく遂に無名所の地と化したらしい」と考えた。

  郊外を歩くと伊水に出くわす。

 

 

「其の左岸の巖壁に有名な六朝時代の遺跡として萬を以て數ふ程の大小石佛が、岸壁や洞窟の自然石に隙間もなく彫刻されてあつた」。

 

 

さらに進むと、「大小の岸壁内や斷壁に無數の大小佛が刻まれて人目を喜ばすけれども土地の者等は魔よけとか呪ひとかにする爲め、ドンドン石像を欠いて持ち去るそうだ」。

 

 

かくして「實に無智の輩には困つたものである」そうな。

 

 

まあ、日本でも有名人の墓石を削ってお守りやら薬にする風習があったそうだが、それと同じだろうか。

  道端の老樹が枝を大きく四方に広げ、黄土の道に影を落としている場所でのこと。

 

 

「田舎の老婆連の巡禮團が十五六名程、揃ひの?衣を纏ひ頭には基?の尼が冠る樣なものを皆戴いて(中略)いかにも敬虔な純直な態度で、此の神木とも謂はれる締縄のある樹に向ひつゝ(中略)心から合掌して」いる光景に出くわす。

「其の時はまるでラファイエルかミレーの宗?畫を眼前に投付けられたような心持になつた」。

 

 

そこに「支那の眞の生きた宗?清淨い信仰が老婆のまわりから輝いてゐたのであつた。予が若し畫家であればなどと思」ったのである。

  京漢鉄道を南下する日。鄭州の宿屋で仮眠していると、「頻りに淫賣婦が來つて扉を敲く、そして夜中ブツ通しで博奕か何かで騒いでゐた」。

 

 

彼女らからすれば坊主でもなんでも客は客ということなのか。

 

 

妻帯する日本の僧侶を僧侶と認めないほどに女性を近づけることを厳禁しているからこそ、彼女らとの交渉が黙認されているのか。

 

 

真実は、その両方にあろうとは思うが。

 京漢鉄道の車窓から眺める。「百姓は未明から牛や馬を追ふて?い影を動かしてゐたのは意外であつた」。

 

 

そこで「支那人は元來怠惰者ではない。この原始的生活を營むでゐる百姓は固來の支那人種の本性を備へていゐて實に勤勉である、

 

 

各都市の阿片や煙草をズーズー吸つて毎日轉がつてゐる人種と甚だ違つてゐるように思はれて頼母しい氣がした」。

 

 

だが、ここで考え違いをしてはいけない。「原始的生活を營むでゐる百姓」も都会で「阿片や煙草をズーズー吸つて毎日轉がつてゐる人種」も、共に同じ支那人なのである。

  京漢鉄道の終着点である「漢口は支那のシカゴと云はれてゐる位い政治上經濟上重大が地位を占めてゐる」。

 

 

だから「各國軍艦商船が漢口の河岸には驚くべく繋がつてゐる」。

 

 

この日はちょうど10月31日の「天長節の佳日」だった。

 

 

「一行は十時頃近くの領事館へ到つて御真影に對し奉り謹むで禮拝を捧げて引き戻つた」。

  漢口から船で長江を下り南京、鎮江、蘇州へ。各地の古寺名刹を訪ね、蘇州の宿は「日本租界の月廼家旅館」だった。

 

 

翌朝起きて見ると、「茫々たる野原に月廼家が淋しく建つて」いるのに気づく。

 

 

そこからは「蘇州の城壁も見へないので未狐にだまされてゐる樣な氣がした」。

 

 

だが、そこは紛れもなく日本租界である。「事實日本の租界地に相違ないが實に寂しいもので有名無實の有樣、空地の雜草は日本人の渡來を待つてゐる」のであった。

  次いで杭州を経た上海では僧侶たちと筆談を重ね歓談の時を持つ。「日支僧侶の親善の端緒は今日充分に展かれた」。

 

 

この動きを継続すれば「外交官の手を煩はす」こともなく、「やがては一般國民の上にも健全な親善を及ぼす事が出來」ると、2ヶ月半の旅を閉じた。

 

 

  釋宗演の旅は、現実離れした『日本製支那像』に拘ることの愚を物語っている。

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