奥山篤信のリバイバル映画批評 石黒かずお原作映画の傑作<日の名残り> | 護国夢想日記

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 日々夢みたいな日記を書きます。残念なのは大日本帝国が滅亡した後、後裔である日本国が未だに2等国に甘んじていることでそれを恥じない面々がメデアを賑わしていることです。日本人のDNAがない人達によって権力が握られていることが悔しいことです。

◎奥山篤信のリバイバル映画批評 石黒かずお原作映画の傑作<日の名残り>
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この映画は劇場でも見ているし、これはDVDで二回目の感想 もう10年以上も前だ。まだ見てない人は是非原作と映画を両方どうぞ!

 

 

今この文章を改めて見ると石黒は<もののあわれ>が理解できているのかもしれないね。

 

 

日の名残り
(原題 THE REMAINS OF THE DAY )1993年イギリス
『日の名残り』DVD

 

 

エマ・トンプソンが出演する映画というのは、どれもこれも秀逸作となるのは不思議なほどである。

 

 

この映画はイギリス育ちのカズオ・イシグロの原作による

 

 

完璧にイギリス風土や文化を習得している日系人だが、その原作の英語もイギリス人顔負けのものらしい。

 

 

僕は公開時に観ているが、再度DVDで観て味わいあるこの映画を噛みしめるように観たが、その印象はさらに人生経験を積んで倍加される。

 

 

あるイギリス貴族の館を舞台に、ナチスに利用された主人とそれに使える忠実な執事とその女官の物語である。

 

 

執事ジェームズ・スティーヴンス に名優アンソニー・ホプキンス、女官ミス・ケントンにエマ・トンプソン そして主人ダーリントン卿 - ジェームズ・フォックス が扮している。

 

 

ダーリントン卿は高貴な貴族であり、欧州の平和を念願するが、それは宥和主義としてナチスに無批判なことで破滅する。

 

 

いわばカントリージェントルマンとして館で欧米各国の実力者を呼んで民間外交を行う。最後の宴席でアメリカの政治家が「君たちはいわばアマチュアであり、リスクについて分かっていない。

 

 

外交はプロに任せるべきだ。」と冷水を投げる。それに対してダーリントン卿は「プロとは権謀術数の古い外交であり、アマチュアは正義と善を基調とするものだ」と怒りをもって反論する。

 

 

結局は理想主義のダーリントン卿のアマチュア外交はナチスの隠された牙で翻弄されてしまうのである。だがここにアメリカのプラグマティズムと欧州の当時の理想主義が対比されていて面白い場面である。

 

 

戦後ダーリントン卿はナチス協力者として弾劾され、マスコミの名誉棄損訴訟にも敗北し、ナチス協力に後悔しながらも失意の中で亡くなる。

 

 

なんと皮肉なことにはこのいわくつきの館を購入したのはかって宴席でダーリントン卿に毒づいたアメリカの富豪政治家であった。

 

 

そんな欧州の第一次大戦後の重い空気を背景に、映画は執事とその女官の心理を描いて秀逸である。主人に使える執事はまさにプロフェッショナルに仕事をこなす。

 

 

主人には絶対忠誠であり、いかなる自分の考えも自分に閉じ込める。決して馬鹿ではなく、読書家でありインテリなのである。

 

 

何が言いたいかといえば、自分の役割を理解し、一切感情を押し殺し品格を保つ、まさに保守主義の権化のような人間像なのである。

 

 

実際は女官に愛を抱きながらも、そして女官もそれに答え遠まわしに愛のしぐさをするのだが、館での恋愛など執事の行動規範としては絶対に許されないのである。

 

 

業を煮やした女官は好きでもないつまらない初老と結婚し館を出て行くのだった。この女官もやはり保守主義の権化でもある。狂おしい愛の心を直情として伝えることは絶対にしないのである。

 

 

そして持ち主がアメリカ人に代わり、執事は人手を探しにまず女官を説得のために旅にでるのだが・・・それでもなおプロフェッショナルな執事、わずかに示す愛に女官は答えるのだが・・・

 

 

こういうイギリス社会を観るとかっての日本の武士道の世界や貞節あるその頃の女性の精神の輝きを観る思いである

 

 

アメリカニズムの直情径行、すべて思っていることを言葉で表す、また表わさないと社会で評価されない世界とは全く異なる、

 

 

品格ある「我慢の輝き」ともいえるイギリス社会の保守主義が画面を通してじっくりと伝わる映画である。

 

 

こういう自己抑制の世界とは程遠い日本になってしまった。
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