ショートショートといえば星新一を思い浮かべる人は多いと思う。
俺も20代前半、「本を読むなら星新一は面白い短編が沢山あって読みやすいよ」と勧められた。
面白いと思って読み進めていた星新一も2、3冊読んでフェードアウト。本にハマった時間もショートショートという始末。
あれから10数年たった後、高倉読書ブーム到来。
本屋をウロついていた時に「ショートショート」という文字を発見。
久しぶりに星新一読もうかなと思ったが違う作者。
「日替わりオフィス」は会社にまつわる短い話。
「ショートショート診療所」は病気にまつわる短い話。
帯にも書いてあるが一つ一つが短いので「たった5分で」読み終わる。
なので電車の中やちょっとした空き時間に読むのには最適。読書が得意じゃない俺でもちょこちょこ読んで1ヶ月くらいで2冊読み終えた。
読んでいて、これは「落語」に近いなと思った。
主に2、3人の登場人物の会話で進められ、入りはいつも会社や病院等日常的な場面だが、展開が非日常、そして最後に「そうきたか」というサゲがある。
一編一編起承転結がしっかりある。
「新作落語」を本で読んでいる感覚だ。
例えば
【ネタバレ注意】
「骨を休める」では
・体の疲れがとれないサラリーマンのラーメン屋での会話《起》
・診療所を薦められ行ってみると様子がおかしい、体から全身の骨を抜かれて文字通り骨を休めさせられ、戻された時にスッキリ《承》
・それでも疲れのとれない人は人工の骨と取り替えたりする《転》
・「じゃあ取り替えた自分の骨はどうなるんですか?」「そこにうちの系列のラーメン屋あるでしょ、、」《結》
起承転結が分かりやすく読んでて面白い。
新作落語が得意な落語家さんにやってみて貰いたい。
上の「骨を休める」でも見られるように「骨を休めるって本当に骨を休めるの?」的な言葉遊びが多く用いられる。
タイトル「中身がなくて」では、よく口にする「私中身がなくて」という言葉が本当の病気になってしまい「このままではあなたの中身はなんにもなくなってしまいます」と医者に言われたり
「枯れた女」でも「このままでは本当に枯れてしまいます」と医者に言われ土の入った治療として靴を渡される。
駄洒落も多用されており
「心霊内科」は心療内科
「更生物質」は抗生物質
「銀杏と生きる」では胃腸の中にイチョウの木が生える
といった感じだ。
しかしこの駄洒落的な発想から始まり、しっかりとした「起承転結」のあるストーリーが繰り広げられるのが凄い。
俺のお気に入りの話は
【ネタバレ注意】
「睫毛の穂」
娘がまつげエクステでススキを付けるようになった。それが何とも美しくて父親でも見惚れてしまうほどで、こんな美しくなった娘に変な虫がつかないか心配。ある日娘のまつげのススキの種が自分の頭についていていつの間にかハゲ頭だったのがふさふさに。そしてこのススキの頭にマツムシが棲みついてしまった。虫がついたのは娘じゃなくおれのほうだった。
思わず「旨いっ!」と言ってしまったよ。
言ってないけど。
まぁ、駄洒落だけじゃなく
飲んだら瞳の中に花火が打ち上がる錠剤の話や
人に降りてくるアイデアを網で横取りしてそれを売る商売を始める人の話など
最初は普通の人間達が少し不思議な出来事にハマっていく様が痛快で面白い。
西加奈子さんの帯「すごく不思議、だけど信じられる世界です」っていってるのもわかる。
巻き込まれた人は最初変な出来事に必ず「そんなことはありえない」とツッコミを入れ、それに対して現実では絶対ありえない話も必ず「これこれこういう理由でこうなんだ」と読んでいるこっちも思わず納得させられる理由を相手(作者)が提示してくる。
だから信じられる世界って思ってしまうのだ。
これを5個下が書いていると思うと末恐ろしい。
というか、この人の作品をまだ読める機械があると思うとワクワクする。
機械??? 機会ではなくて機械って漢字間違いですよね。
いや、機械です。
え、どういう事ですか?
この田丸雅智さんみたいな本を書く機械、人工知能が搭載されたショートショート製造機が開発されておりまして、、
みたいなね!