武士にとっての刀。
作家にとってのペン。
どの業界にも、無くなると仕事そのものが成り立たなくなる道具というものがある。
大工さんにとってのそれは、エアコンプレッサらしい。
それがどんなものかは知らないが、エアを強い力でコンプレスするのだろう。
岡山で大工となり10年たった30歳のころ、仕事が全然なかった。
久しぶりに入った現場の仕事にいくためのガソリン代もなかった。
命とも言えるコンプレッサを売って、2万円の現金を手に入れ、ツケで10万円のコンプレッサを買う。
友達が仕事帰りに遊びにいくのがうらやましかった。
ドロドロに汚れた作業着と軽トラックではかっこつけることもできず遊びにさえいけなかった。
徐々に友達との距離ができて、一人ぼっちになった。
一人親方とカッコよく言ってみても、狭い世界で生きている。
雨が降って大工仕事が突然休みを告げられる。
日当は入らず焦るのに、パチンコに行くか、道具の手入れしかすることがなかった。
これでいいのか・・
迷い続けた10年間。
今、彼は建築会社の社長になり、職人さんに仕事を依頼する側になった。
職人さんに今日は仕事がありません、とは言いたくない。
だから古いアパートを買って休みの日には、それを直してくれるように仕事をお願いする。
赤字になっても仕事をつくる。
職人さんをもっと笑顔にしたい。
今、あなたにかけたい言葉がある。
「もう、我慢しなくていい。味方だから。」
カッコよすぎる。
泣けた。
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