猫の額程の庭に、寒い季節からずっと

黄色いまるい実がなっている。

「きんかん」という名のこの柑橘

氷砂糖で煎じると、咳が止まると

母から教えられていた。

 

だから、子供達や、主人の咳がひどくなると

小さな土鍋に氷砂糖とともに火にかけて

コトコトと時間をかけたものだ。

 

だが、世の中は物語のように

いつも感動的ではない

 

幼い息子は 「まずいからいや」と言い

当時まだ、遠慮がちだった娘さえ

「もう、咳でなくなった」とごまかして

この母の愛情を無にしようとする。

 

分別のある、愛妻家であるはずの夫さえ

「なんかちょっと苦手」と言って

妻の優しさに背を向けるので

 

幸いこの柑橘を好む親しい人達に

ムキになって配ったりした。

 

折角、庭に、たわわ に なっているのに

時々鳥たちが、つついてくれるだけでは、

地面に落ちて、肥料になるだけでは、

もったいないではないか!

 

かく言う私も、通りすがりに

大きそうなのをひとつふたつ

摘んで、皮だけかじって捨てていた。

 

が・・・・・・・・・・

 

先日、滅多に会えない、大人になった息子が

金管をまるごと食べる と言う言葉を聞いた。

 

!!!!!!!!!!!!

 

手間暇かけて煎じたのは飲まなかったのに

まるごと食べるー???

 

勿論煎じていたのは、まだ息子が

抱っこできるほどの幼い頃だが

 

まるごと? 種まで?

あれって、皮を食べるものじゃないの?

全部食べていいの

 

驚いた私は、その日から

ガーデニングを習慣化して

最後に必ず金管を摘んで、まるごとかじるようになった。

 

私はつい先日まで、喋る仕事を長年していて、

喉は非常にいたわって過ごしていた。

だが、生まれつき喉が弱く、

タンが絡まない、すっきりな喉の状態なのは

本当に本当にまれであった

 

だが、この金管まるごとかじり

愛用していた喉ヌールスプレーよりすごい

 

少し痛かった喉が改善し

エヘン虫までかげを潜めてしまった。

 

煎じなくてもよかったんだ。

まるごとかじれば

ビタミンも酵素も一緒に取れて

しかも手間なしではないか!

 

娘にも息子にも、主人にも

悲しげな顔や凄んだ顔を見せなくて良かったんだ

 

正直に告白すると、実は私も

あの煎じた味は好きじゃなかった。

母が作ってくれた時も、

素直な子供だった私は黙って飲んだけど

薬だと思わなければ飲みたくなかった。

 

陽の光を浴びて、まだたくさん実っている

大きくなったのを選んで丸ごとかじると

皮だけ食べていた時より甘くて瑞々しい。

 

もしかしたら世界は、

本当はこんな風にシンプルにできているのかも

 

青く澄んだ青空に 深呼吸してみた。