
古伊万里の猪口、俗に蕎麦猪口と呼ばれている器は世に数多く存在します。
絵付けも把握しきれない程に多様です。
ですが、実際手に取って普段の暮らしの中で使いたいと思える猪口となると、これがなかなか見つからない。
写真の猪口は、蕎麦猪口としては比較的初期の作で、水仙文あるいはあやめ文と呼ばれている絵付けのものです。
これは私がよく行く骨董店で、店主の私物が置かれている棚に長年置かれていた品です。
私がそのお店を訪うようになって間もない頃、店主が棚から取り上げて、
「このような猪口が初期手と呼ばれるものですよ」
と教えてもらったのが写真の猪口との出合いでした。
以来、店主の私物である事は承知の上で、ときおり棚から取り出してもらい眺めていました。
生掛け独特のとろりと潤うような肌の質感、底が厚く作られているが故のずっしりとした手取りの心地好さ。
毎度まいど、欲しいなぁと思い続けていました。
言葉に出しはしなくとも、私がこの猪口を欲しがっている事は店主も感付いていたらしく、つい最近になって店主に、
「欲しい」
と告げた所、どうにか譲ってもらえました。

蕎麦猪口とは言いますが、これらが作られた当時、つまり江戸時代には蕎麦を食べるためだけの器だったワケではないようです。
いまでいうフリーカップのような使われ方もしたのではないかと私は思っています。
この猪口は直径7センチ程度の大きさで、蕎麦を手繰るには少し小さい。
ですが、このように飲み物を飲むにはちょうど好い寸法なのです。
日々のお茶から夜な夜なの晩酌まで、愛用しています。
描かれている絵は、水仙ともあやめとも言われていますが、抽象的に描かれていますから、見て使う時節に合わせて、好きな花として見ればよいと思います。