「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」
-射撃が下手でも、数多く撃っているうちにまぐれで命中することもあるという意味から。
回数が多ければ多いほど、当たる確率も高くなるだろう。 「下手な鉄砲も数撃てば当たる」ともいう-
これを実戦で考えた場合、いくつかの問題点がある。
【①、方向】
的は北方にあったとする。当方は南に向かって射撃を繰り返したとする。この場合だといくら撃っても当たらない気がする。
【②、弾数】
弾数が無限にあるとき、このロジックは成立する。実戦で弾数が無制限なんてことがあるのだろうか。
【③、的】
的はその場を動かず、かつ的は当方を攻撃をしてこないという前提条件があった場合、このロジックは成立する。的が「人」だった場合、まず一発目の銃声で身構え、2発目以降に当方の場所を認識し、回避行動を取る、若しくは反撃をしてくるのではないだろうか。
【④、厭戦気分】
いくら射撃を行っても的に当たらなかった場合、撃ち手のモチベーションは続くだろうか。
勿論これは諺なので、「実戦で活かしましょう」というメタメッセージが込められているとは思わない。
でもこのロジックを21世紀の現在でも取り入れている職業がある。
飛び込み型訪問販売である。
私は過去、2社で足掛け5年飛び込み営業を行った経験がある。
その間に接した9割の上司は「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」作戦を押し付けてきた。
「一日30件突撃してこい。それでもだめなら50件に増やせ」と命令される。
で、実績はどうか。
全然ダメ。
前述の①②③④でいうと、
まず①について、「方向」というのは「どの地域に訪問するか」に置き換えれる。
仮に商材が「救急箱」だったとして、訪問先が大病院の社宅マンションだとしたら一日100件訪問しても200件訪問しても買ってくれる見込は極めて低い。
②について、「弾数」というのは「時間」に置き換えれる。
営業マンが飛び込み営業に費やせる時間は無限かというとそうではない。
特商法で訪問販売を行って良い時間というのが決められているし、それを破って夜中に訪問したとしても相手にされる確率は低く、更に通報される恐れもある。何より肉体的にも精神的にも、24時間飛び込み営業に耐えれる人間なんていまずいない。
③について、「的」は「訪問先」に置き換えれる。
飛び込み営業を行い続けるとその町内会等で話題になり、果ては町内会で対策を取って「OOお断り」等の張り紙を玄関に貼られる。更に一度断られた先に二度目の訪問を行うと、高確率でドヤされる。そうなると、営業マンはその地に立ち入るのを委縮してしまう。
④について、「厭戦気分」はそのまま「厭戦気分」。
100件訪問しても200件訪問しても断られ続けたら、普通の人間なら萎える。よって、営業マンが商談を行うモチベーションもパフォーマンスも下降線を辿る。
この①②③④の問題点については、少し考えれば誰でも分かる。
なのに何故その上司たちは「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」作戦を押し付けてくるのだろうか。
これは実行者が「人間」であるという前提で考えるから答えが出ないのだと思う。
「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」について、撃ち手を「人間」は無く「ロボット」と置き換え、飛び込み訪問の話でいくと、営業マンをロボットと置き換えてみる。
ロボットには感情も疲れも無いので、②③④の問題はそもそも起こらない。
つまり、上司は営業マンの感情を消させ、プログラミング通りに動く(プログラミング通りにしか動かない)ロボットを作りたい訳だ。その為に、まだ人間である営業マンもロボットとして扱っているとすれば、説明がつく。
では、「①、方向/どの地域に訪問するか」についてはどうか。
撃ち手がロボットであったとしても、北にある的に対して南に発砲しても理論上当たらないし、これを飛び込み営業に置き換えても、極めて非効率だ。
それでも上司は「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」作戦を押し付ける。
何故か。
それは「上司もロボットだから」である。
かつて上司自身が営業マンだったころ、当時の上司に知らず知らずのうちに感情を消され、ロボット化してしまった。
その結果、今では自分自身がロボットとして、部下のロボット(若しくは「まだ」人間)に指示を与えている訳だから、当然上司もかつて自分がプログラミングされたことしか指示できないのである。
私は飛び込み営業を行っていた時、何度か「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」作戦の是非について上司に相談をしたことがある。
飛び込み訪問を行うなら、まず商談に進む可能性が高いのはどんな人かを考え、それをリスト化し、そのリストを基に飛び込み営業を実施し、実施した結果を分析し、そこから改善点を見つけ、それを基にリストをアップデートしていきましょう(要はPDCAを回しましょう)。
更に、飛び込み営業だけがこの商材を売る唯一の営業手法では無いハズなので、並行して他の方法も考えましょう、と。
しかし、「リストなんか作っている時間があるなら一軒でも多く訪問しろ」「頭動かすな、筋肉動かせ(原文ママ)」と、ことごとく却下された。
これも上司自身がロボットであり、その上司は私のことをロボットと認識していたとしたら説明がつく。
「自分で考えることなどしなくて良い。命令文通りに動きなさい」と言ってるのだ。
AIに取って代わられる職業って、もしかしたらこういう上司かもしれない。
この話、作り話じゃなくて本当に私の体験談なのだ。
少し話が長くなったが、私は飛び込み訪問の営業マンは全てロボットだとは言っていないし、飛び込み訪問自体を悪だとも思っていない。
かくいう私も飛び込み営業を行って、月に7ケタの給料を手にしていた時期もあった。
人に何と言われようが何と思われようが、法の範囲内で売上を伸ばし、しっかり税金を納めて家庭で良きパパなら、それはそれで素晴らしいことじゃないか、とも思う。
でも私はロボットにはならなかったし、ロボットを作り上げることもしなかった。
そんな自分を誇りに思う。