10年程前、アメリカのカリフォルニア州のコミュニティー・カレッジに留学していた。
コミュニティー・カレッジとは2年制の短大で、
4年制大学である「University」の1、2年でやる一般教養を勉強するところだ。
私がとった科目に「Magic, Witchcraft and Religion」
というちょっと変わったものがあった。
訳すと「魔術、妖術、宗教」となり、さまざまな宗教や
カルト団体について学ぶ科目である。
例えばゾンビで有名なブードゥー教とか、合同結婚式で
有名なあの団体とか、シャーリー・マクレーンが信仰する
クリス・グリスコム(Chris Griscom)とかについての実に興味深い内容だった。

もちろん日本の学校と同様に定期試験がある。
今回話す奇妙な出来事が起きたのは、その科目の定期試験の日のことだ。
私は試験に自信がなかった。ワリと和英辞典を用いての英作文には自信があって、結構レポートで「A」をもらうことが多かったのだが、授業での発言は出来ないし、テストも得意とは言えなかった。
「出来れば以前、よその科目で一回だけあった持ち帰ってやるテストならばいいんだけど。そんなに甘くはないよな」
と試験の直前にふと思ったが、試験は容赦なく始まり、中年女性の教師が試験用紙を配り始めた。
もう堪忍するしかない。
時間が来て、皆、試験用紙を表にし、私は必死に問題を読み、解答を英語で書き込み始める。

と、その時だ。
一人の警官が教室に入って来た。教師に何か言っている。
しばらくして、教師が教室の生徒に向かって大きな声で言った。
「爆弾がこの付近に仕掛けられたらしいから、テストは持ち帰りです」

「ん、何だって?」

さすがアメリカである。日本ではちょっと考えられない話である。
生徒達がカバンに試験用紙と筆記用具を仕舞い、ぞろぞろと教室から出て行く。
一人の女子生徒が帰りがけに教師に言った。
「私が魔法(spell)をかけたからよ」
教師が苦笑いした。

この出来事ってもしかすると私が、「持ち帰りにならないか」と思ったから起こったんじゃないか、と今でも思っている。世の中、思い通りにならないことの方が多いけれど、何気なく思ったことが実現することもたまにはあるってことではないだろうか?
こういう場合、「絶対にこうなれ」って執念を持つよりも、何気なく、さらりと「こうなればなあ」って思った方が実現する感じがする。

ちなみに私はこの科目で「A」をいただきました。
「ラッキー!」