午後八時ごろ、龍馬は峰吉に命じました。

「腹が減った。軍鶏を買ってこい」

軍鶏は土佐の名産であり、龍馬は軍鶏肉を使った温かい鍋料理が大好物だったそうです。
この日は、十一月の真冬であったのもあったろうし、現在の様なエアコンも無く、熱もあり風邪を引いている龍馬にとっては火鉢だけでは心もと無かったはずです。

龍馬の軍鶏鍋には中岡も賛同し、岡本にも是非食べていくように勧めましたが、岡本は「ちょっと」と遠慮しました。
それは下宿している四条河原町下ルの薬屋「亀屋」に戻るためでした。
岡本は「亀屋」の娘と恋仲になっていたそうです。
流石にこれを引き止める事は出来ず、岡本は峰吉と一緒に「近江屋」を出ることになります。

はじめは下男の山田藤吉が軍鶏を買いに行くと申し出ましたが、峰吉のほうが若いし脚も速いからという理由で峰吉が軍鶏を買いに行くことはなりました。
これで、峰吉は「近江屋」を離れ命を免れることになります。

峰吉が軍鶏を買いに行くのは、岡本が向かう「亀屋」と同じ四条河原町下ルにある「鳥新」という店でした。
峰吉が「鳥新」に行くと、「すぐに軍鶏をつぶすから、しばらく待ってくれ」と主人に言われ、二、三十分ばかり待ち、買った軍鶏を持って、「近江屋」へ引き返しました。

其の三へ続く……。