真門浩平 「僕らは回収しない」
あらすじを読んで面白そうだったので買ってみました。
ミステリー系の短編集となります。
本書の見所は犯行動機が特殊な考えから来ている章が多くあって面白い点です。そんな理由で?と思ってしまうような動機が多く登場するのですが良く考えると現代人がしがちな考え方と非常に似ていて、そういった思想の危うさを書いているような印象でした。こういった内容なのでミステリー部分よりも心理描写の上手さの方が本作の見所になるというのが読んだ印象でした。
私は見所とみなしましたが、読む人によっては動機に納得がいかず奇を衒っているだけに感じるかもしれません。このあたりは少し人を選びそうです。
ミステリー部分についても使用されているトリックは小規模ながらも質の高い内容になっています。こちらについては上記のような奇を衒ったようなものは感じではなく、閃きで謎解きに近いようなものになっているので挑戦しながら読んでも楽しめるでしょう。
作中に手にしたものを大切に出来ないなら、壊してしまえば取り戻せない状態にすればその大事さに気づける、と考えて行動するシーンがありました。俗に言う「失ってから気づく大切なもの」を無理やり引き起こす行動ですね。「失ってから気づく大切なもの」に遭遇したことは、私は今まで一度もありません。古くから言われているのに未だにこのパターンになって後悔する人が絶えないのはなぜだろう?というのを想像してみました。
一つ思い至ったのは大切なものを全部持とうとしてパンクするからだろうというものです。物でも人間関係でも管理できるキャパシティが誰にでもあります。キャパシティを超えてしまったときに「要らないもの」を捨てるのは比較的簡単ですが、「大切なもの」である物事だけにしてもキャパシティを超える時が問題です。そういったときに「大切なもの」の下位を捨てられるかは、人間性によるところが強く出そうです。「失ってから気づく大切なもの」はこれが出来なかったがために下位の「大切なもの」にかまけた結果、最上位の「大切なもの」を失ったときに起きるのではないか、というのが私の考えです。
私の場合、物も人間関係も定期的に優先順位決めを見直すようにしています。自分で下位と決めて捨てているので、持っていれば良かったと後悔した経験は今のところないです。皆さんも下位の「大切なもの」に時間を使い過ぎないように気を付けましょう
変わった内容の短編集なので、気になる方はチェックしてみてください。