先日の話になるが、高校野球の監督さんが試合に負けて、「負けたのは末代までの恥」「腹を切りたい」と発言した問題に関して、取材を受けた。


私は、「腹を切る」という言葉を使ってほしくなかった。


「腹を切る」ということの意味を何も知らない若者達がこのニュースを見たら、


「ああ、武士道とはそういうものなのか」
「腹とはそういう時に切るものなんだ」


と間違えて捉え、誤解してしまう。


それが一番気になった。だから私は苦言を呈した。


日本古来から伝わる「腹を切る」という行為は決して私的な感情ではなく、武士が大義、信義、道義、忠義のためにするものだった。


名誉の死だ。公的・天的な意味が含まれていた。


あるいは己の命を断つ、捧げることで、他を生かすため、正義のため、次なる者の、あるいは子孫のため、人類のために身代わりになるためであった。


自分が恥ずかしい、だから腹を切る。これは、切腹にはならない。武士達はこれを「犬死に」と呼び、蔑んだ。名誉の死ではない。勝手に死んでしまっただけだ。


自分だけのことを考え、深く考える事もなく私欲で死ぬ。これは情けない。


この考え方が武士道精神というものであった。


つまり、切腹とはとてつもなく神聖な儀式であって、価値ある尊い命を天に捧げるということ。そこに私的な気持ちは何もない。


天が認める程の価値ある死。


だから切腹という言葉を簡単に使ってほしくない。それは困る。これが私の気持ちです。


負けた悔しさを吐露してしまう時点であの監督さんはまだ武士道精神の理解に対し、また腹を切るという意味を勘違いされていたのか、あるいは感情的につい言ってしまったのか。。


「こんなチームに負けるわけがない」と思って負けた。それを悔しいと思う傲慢さ自体が問題なんだということに気づかないと。


一度の負けは序論のようなもの。やるところまでやって、いい経験をさせてもらったな、と思えば若者達も新たな戦いに向える。


だから、慢心して惰性に陥ることなく新たな挑戦の切符をもらったんだ、と感謝しなければならない。


益々、自分を磨く修行のチャンスを与えてもらった、また訓練する時間を与えてもらった。そういう感謝なくして、何のための試合なのか。


試合は、勝敗を決するためだけにあるのではない。どのように修行が積めるのかということが重要であり修行、成長の場であった。結果ではない。プロセス、修行の場として学びを得る、教訓を得る、ということ。慢心と惰性こそ最大の敵。


つまり、これは戦場ではなくスポーツなんだ。生きるか死ぬかではない。これは修行の場なんだから。


敗者は、修行としては最高の場を与えてもらったということ。


慢心していた自分達が思い知らされた。


「お前達は絶対に勝てると思っていたけれど、甘くなかった、勝てなかった。人生はそういう事もある。そんな勉強ができたなんて、教訓として凄い場じゃないか!」と導いてあげるのが指導者なんだ。


それを与え、導き、気づかせるのが若者一人一人を成長させるリーダーの役割であって、勝つか負けるかに執着するのは愚かなこと。


そして、はやばやと辞めてしまった。


武士道は苦を消化するもの。苦こそが人間を成長させ心を強くする、全てを超えていける力を身につける方法だと思う。これを通過しないと、逃げる、ごまかす、愚痴や恨みをすぐに言うような人間になってしまう。


辞めるのはすっきりするかもしれない、しかしそれでは全国の若者達の気持ちが収まらないのではないか。残された弟子達はどうなる。あなただけ逃げていいのか。


歴史に名を残した、一流と言われる世に功績を残された方は、想像を絶する鍛錬、苦難、苦痛を通過してそこに至っているはずです。数多くの失敗や挫折を超えながら鍛錬をし、やっと掴んだ栄光だと思うのです。


簡単に手に入るものではない。それは有り得ない。


ただ、人にはそのプロセスが見えないから、結果しか見えないから簡単に思ってしまうけど、そうじゃない。それを知ってほしい。失敗こそが糧となって次に向うチャンス、材料となり成長して行く。


だから、自分の恥ずかしさだけで答えを出すのはいかがなものかと。


辛い思いをし、冷たい視線を浴び、恥ずかしい思いをしながらもそれを受け入れる許容量。


若者達を激励し、彼等の壁になって守る。与えてあげる。導く。


その姿に弟子達は感動するのであって、そういう姿勢に未来と希望がある。


多くの非難を背に受け、耐え忍び、前進し導く、辞めないことの方が、若者達の見本となるのです。今回の失敗こそが最高の勉強材料になった。


これに気づいたとしたら今回、これほどの素晴らしい学びはない。技術だけでなく心と精神、気力などの訓練になる。


だから、辞めてほしくない。私はそう思います。


合掌、
藤岡弘、


藤岡弘、オフィシャルサイト