"ICEPICK'13"についての3回目、PART 3を。

CRAWLERを見終わり、次の大阪のスキンヘッドバンド、壬生狼までのセットチェンジの間に店のバースペースに行き、暫しドリンクタイムに突入。
するとこの夜のゲストアクト、米国からやって来たBOUND FOR GLORYのメンバーが日本サイドのバンド関係者や観客と談笑していた。
僕が見た限り、彼らは非常にフレンドリーな感じでお互いに肩を叩き合ったり、おどけたボディーアクションを交えながらジョークを飛ばしたりしていて日本のショウの雰囲気をエンジョイしていた。
壬生狼のライヴが始まったのだがこの夜はバースペースで何となく人間ウォッチングをしたくなり、ドリンク片手にイベントに足を運んだ観客やらバンド関係者の歓談する様子を観察してみた。
スキンヘッドバンドのイベントといっても皆が皆、厳つい男性客ばかりという訳ではなくバースペースに顔を出す面々を見ても女性やごく普通の音楽ファンまで幅広い層の人間がこの場に駆け付けていた事が分かった。
BOUND FOR GLORYというバンド名を聞いてと真っ先に頭に浮かんだのはプロテストフォークの元祖、放浪のフォークシンガー、ウディ・ガスリーの伝記映画『ウディ・ガスリー わが心のふるさと』(1976年)の原題がBOUND FOR GLORYだった(元々はウディの自伝本のタイトル)。
ウディ・ガスリーは1930年代、大恐慌時代に自然災害や貧困から逃れる為に故郷のテキサスからカリフォルニアへと放浪の旅を続ける中、所謂ホワイトプアーの労働者の惨状を目の当たりにして悪徳資本家と対峙する労働組合の集会等で米国の民間伝承歌としてのフォークソングやプロテストソングを歌って民衆を啓蒙・鼓舞し、その作風や生き様はボブ・ディランにも多大な影響を与えた。
そんなウディの生涯を追ったキース・キャラダイン主演のこの作品はくすんだ画質の映像処理が効果的で、当時の時代描写にリアリティーを与えていた。

閑話休題。

BOUND FOR GLORYは1989年に結成され、米国ミネソタ州ミネアポリスを拠点に活動しているスキンヘッドバンドで今回の日本ツアーを記念して制作された日本のAGGRO KNUCKLEとスプリット作品を含めてこれまでにアルバムを16作品、シングル4枚、旧作品のコンピレーション盤1枚をリリースしているベテランバンドだ。
彼らは所謂ネオナチ、ホワイトパワー・スキンヘッドバンドである。
メンバーのエドはサイドプロジェクトとしてNSBL(国家社会主義ブラックメタル)バンドのBEFORE GODというバンドでも活動している。
またオリジナルメンバーだった詳細は不明だがボーカリストは1993年にオレゴン州ポートランドである事件に巻き込まれ、死亡している。
恐らく多くの音楽リスナーはネオナチ、ホワイトパワーと聞いて条件反射的に忌避したり排除したりしがちであろうが、およそどんな政治的思想・理念を持っていようがそうした立場・スタンスに至る過程に於いて各々それなりの事情や背景がある。
個人的には今回、AGGRO KNUCKLEとリリースしたスプリット作品のタイトルにもなっている日本ツアーのテーマ、"Respect And Honor East Meets West"にある通り、どんな思想・理念を掲げている者であろうと音楽を通じて互いに交流する事は非常に意義のある事だと思う。
例えばお互いに異なった思想・信条を持つ者同士でも何らかの意見交換をする事によってどこかに接点を見出だす事も可能だろう。
スキンヘッドバンドと一口に言ってもその政治思想一つ取っても極右と言われるアーリアン・ネーションズ運動に参画するものからからSHARP(Skinheads Against Racial Prejudice)のように人種差別反対を唱えるグループまで右から左まで様々だ。

BOUND FOR GLORYのメンバーが白人至上主義を掲げるホワイトパワー・スキンヘッドであるならば、黄色人種である我々日本人の元を訪れてライヴツアーをやるというのは画期的な事だと思うし、彼らに何らかの意識の変化があったのかも知れない。
少なくともこのツアーを通じて交流したバンド関係者等とコミュニケートした事はある部分に於いて相互理解が成立したのではないかと思うし、それこそが意義深い事だったと思う。

先に触れたウディ・ガスリーは若い頃に体験した貧困とその遠因だった悪徳資本家が労働者から搾取する社会構造への義憤により生涯を通じて共産主義者であり続け、そうした立場からプロテストソングを歌って広く社会に訴えた。
所謂ネオナチ・スキンヘッドバンドやホワイトパワー・スキンヘッドバンドも、事の真偽はさとおきユダヤ資本によれ労働者からの搾取を訴えている(個人的にはそれが高じてユダヤ人全体を攻撃対象にするのは同意しかねるが)。
政治的な立場が右でも左でも皆、最初は社会的不平等、理不尽な現実に憤りを感じ、音楽を初め何らかの表現行為に駆り立てられるのは同じだと思う。
それが攻撃、糾弾する対象がどんなベクトルに向かうのかは別としても。

ウディ・ガスリーの代表的なプロテストソングに『我が祖国』という曲がある。
以下に一部を引用する。

この国はきみの国
この国はおれの国
カリフォルニアからニューヨークの島まで
アメリカ杉の森からメキシコ湾の流れまで
この国はきみとおれのために作られた
大きな高い壁が行く手をふさぐ
大きな看板が立っていて「私有地」と書いてある
だがその裏側には何も書いてなかったぜ

バー・スペースからフロアに戻ると程なくしてBOUND FOR GLORYのライヴが始まった。
勢い余って最初の曲でギターのシールドが抜けたのか、ちょっと中断する場面もあったのだが徐々に調子を上げていきミッドテンポな曲からハイスピードなハードコアナンバーまでタイトでへヴィ、彼らの真骨頂とも言えるメタリックなスキンヘッドサウンドが会場に鳴り響いた。
メンバーがサイドプロジェクトでブラックメタルバンドをやっているだけあってハードコアやメタル等、様々なエクストリームミュージックの要素を消化した彼ら独自の素晴らしいサウンドを披露。
会場も一部の在日外国人スキンヘッズの観客に煽られて他の客も次第に日本のバンドのライヴ時と遜色ない盛り上げを見せ、途中ステージ前で何故か黒ギャル?の女性が肩車されてノリノリで踊っているという何とも微笑ましい光景が現出した。
またフロントマンがMCで「俺達はスキンヘッズだ。何も隠す事はない。」と叫んでいたのだが、これも米国で彼らがどのような立場に置かれているのかを伺わせるものだ。

Bound For Glory - American Roulette
※2011年にリリースされたBOUND FOR GLORYのアルバム"Feed The Machine"収録の"American Roulette"。

Before God - Wolves amongst the Sheep - Defiance
※2002年にリリースされたメンバーなサイドプロジェクト、BEFORE GODのアルバム"Wolves amongst the Sheep"収録の"Defiance"。

そしてインターバルを挟んでトリの鐵槌がステージに姿を現した。
彼らは1990年代初頭から日本のスキンヘッドバンドシーンの最前線で活動を続ける文字通りの重鎮バンドだ。
鐵槌も桜花と同様にSSS(Samurai Spirits Skinhead)として海外でもその名を轟かせて非常に高く評価されているバンドだ。
彼らのディスグラフィーも以下に紹介しておく。

アルバム

■Samurai Thunder(12", Mini Album)※雷(Ikazuchi)とのスプリットアルバム。
Steve Priest Fan Club(USA)/1992
■Return From The Rising Sun※Bull(12", Mini Album)※The Buffalosとのスプリットアルバム。
Kamikaze Records/1993
■日本狼
Straight Up Records/1999

シングル

■New Dawn Warriors
New Bleed(USA)/1992 Pruduced byand Tommorow (Japan)
■Anthem EP
Vulture Rock(USA)/1994

カセット

■Hang 'Em High(5曲入りカセット)
セルフリリース/1991
■闘争(2曲入りカセット)セルフリリース/発表年度不明
■Live Tape(プロモ用カセット、12曲入り)
Tommrow Records(USA)/発表年度不明

オムニバス参加作品

■狼の宴
坂本商店/1994

■Werewolfen:The Japanese Samurai Compilation Vulture Rock/1995
■Fight Back For The Rising Sun
Vulture Rock/2000
■Made In Japan (Skinhead Sounds From The Land Of The Rising Sun)
Mother Fucking Sounds(UK)/2011

彼らも日本国内よりも海外からのリリースが圧倒的に多い。

さて、肝心の鐵槌のライヴであるがこれまで数回見たライヴの中でも出色のものだった。
鐵槌も1980年代以降に現れたメタリックなスキンヘッドサウンドが売り物であるがパンクや1970年代のハードロック、プログレの要素も感じられ、その楽曲構成に於ける重厚さ、荘厳さは中でも群を抜いている。
短いMCを挟みつつ『我、怒る故に我在り』『三千世界』『日本狼』と彼らの代表曲を立て続けに披露、会場も演奏前からステージ前に押し寄せた観客がライヴの進行に伴って益々ヒートアップ、トリを飾るに相応しい貫禄のパフォーマンスで文句なしにこの夜最高の盛り上がりを見せた。
そして本編ラストは名曲『儚き花よ』。
この夜出演したバンドはどのバンドもギタリストの多彩なギターワークに見るべきものがあって魅魅了されたのだが、イベントの正にクライマックスの場面でプレイされたこの曲で鐵槌のギタリストは、―もうこの歌詞にはこの音しかないだろう―というような素晴らしいアレンジ、フレージング、トーンコントロールを披露した(大袈裟でなくそれは芸術的な域にあった)。
彼らがステージを去った後も収まりがつかない観客の為にアンコールに応えて一曲演奏し、スキンヘッドバンドの饗宴は幕を閉じた。

鐵槌の名曲『儚き花よ』はStraight Up Recordsからリリースされた桜花とのスプリットシングルに収録されているのだが副題にもある通り、神風特別攻撃隊についての率直な想いを歌ったものだ。
この曲などはスキンヘッドバンドファンならずとも、例えば中島みゆきの『ヘッドライト、テールライト』や長渕剛の『乾杯』等に情動を揺さぶられるような感性を持っている者が聞けばきっと心の奥底に訴えかけてくるものがあるだろう。
そのくらい訴求力のあるパワフルな叙事詩と言っていい。
前回、スキンヘッドバンドにはメディアのバックアップがなく、大手レコード会社やインディペンデント・レーベルの食指を動かさないと書いたのだが、札幌のインディーズ・レーベルのStraght Up Recordsはこれまでに鐵槌、桜花を初めスキンヘッドバンドの作品も積極的にリリースしており、状況は決して悲観的ではない。

sledgehammer - kamikaze
※鐵槌の名曲『儚き花よ』。今さら説明の必要はないだろう。皆に耳を傾けてもらいたい。

スキンヘッドバンドを無視し続けてきた(というよりそれを評価する基準、スタンダードを持っていなかった)音楽メディアに限らずメディア全般の問題について言えば、昨今の総選挙、参院選でのリベラル陣営の大敗は、リベラルを是としてきたメディアの一角には大きな衝撃を与えたようだ。
国民意識のドラスティックな変化にメディアが追い付いていけなくなったような気がする。

この続きはPART 4へ。