前回に引き続き去る9月22日に開催されたスキンヘッドバンドの饗宴"ICEPICK'13"について。

AGGRO KNUCKLEに次いでステージに登場したのはこれもベテランバンドの桜花。
昨年開催された同イベントでトリを務めた時に初めて見たのだが、とにかくフロントマンの存在感に圧倒された。
彼らのプロフィール、そして音源リリースに関して少し触れておきたい。

彼らの初の音源リリースは3曲入りのデモテープで"Our Way""Low Life""Boot Boys"が収録されていた。
1992年には米国のSteve Priest Fan Clubというインディペンデント・レーベルから鐵槌とのスプリット7インチをリリースした(桜花サイドは"Low Life""Pride"の2曲収録)。
因みに同レーベルはOiスキンヘッド・レーベルの名門Vulture Rock Recordsの傘下レーベルだったらしい。
そして1993年にドイツのS.P.E. Records/Dim Recordsから世界中のOiスキンヘッドバンドを集めたオムニバス、"The Only Spirit Is...Unit"に参加("Firm Spirit"を収録)。
1994年にはイースタン・ユースの音源リリースでもその名を知られる坂本商店から日本のスキンヘッドバンドのオムニバスのマスターピースとも言える『狼の宴』に音源提供(『不動魂』『天空』を収録)。
この後は2000年に鐵槌とのスプリット盤が7インチシングルとCDEPのフォーマットで日本のStraight Up Recordsからリリースされたもの(『ゲキオウ』『土に往く迄』を収録)以外は海外のレーベルからリリースされたコンピレーション盤への参加が続く。
1995年には先出のVulture Rock Recordsから"Werewolfen:The Japanese Samurai Compilation" 1995 "("Low Life"を収録)、同じくVulture Rock Recordsから"Fight Back For The Rising Sun 2000"("Firm Spirit"を収録)が2000にリリース。
そして直近のリリースとなるのが2011年にMother Fucking Sounds(英国で活動している同名のスキンヘッドバンドのレーベル)からの"Made In Japan (Skinhead Sounds From The Land Of The Rising Sun)"("Firm Spirit""Low Life""Pride"を収録)となる。

長々と彼らのディスコグラフィーを書き綴ったのは、数少ない彼らのオフィシャルリリースの音源から"Firm Spirit""Low Life""Pride"の3曲が海外のレーベルからリリースされているコンピレーションに何度となく収録されているからだ。
これは音源発表の機会が極端に少ない彼らの存在がいかに海外のスキンヘッドミュージックファンに轟き渡っているか、その証左と言っていい。
桜花に限らず日本のスキンヘッドバンドの音源は国内よりも海外で積極的にリリースされているように思う。
こうした傾向も前回指摘したように保守=右翼的な色彩のある文化に対して日本のメディアが軽視する傾向と決して無関係ではない。
メジャーであれインディペンデント・レーベルであれ某のバンドの音源をリリースするに当たってメディアのバックアップが望めなければ消極的になるだろう―これはスキンヘッドバンドに関しては日本だけの問題ではないだろうが―。
スキンヘッドミュージックは国内外を問わずバンドもレーベルも利益や収益を当てにしていたのではとてもその活動を継続する事はできないと思う。
彼らを音楽を通じての表現行為に駆り立てる動機は決してコマーシャルベースなものではないのだ。

この夜の桜花のライヴパフォーマンスはスタートから観客を煽りまくり、昨年見た時より遥かにアグレッシブさを全面に押し出したものだった。
オープニングは戦国時代の合戦時の軍配よろしく法螺貝吹きを合図に"Low Life"からスタート。観客も凄まじいテンションでステージ前に殺到し、モッシュあり、サイコビリーバンドのライヴで定番のパンチ合戦あり、皆思い思いのスタイルで踊り暴れていた。途中、観客から彼らを讃える「桜花」コールも巻き起こり、日本のスキンヘッドシーンの重鎮たるに相応しい存在感を遺憾無く発揮していた。
昨年彼らが出演した時は出順がトリというポジションというのもあったのか、演奏のテンポもこの夜に比べると遅めで「聞かせる」パフォーマンス&プレイを意識していたような気がするが今年は出順も中堅であり、ある意味ヤンチャなイケイケモードのステージを展開していた。

彼らの代表曲"Low Life"から歌詞の一部を抜粋してみる。
「馬鹿げた流行りを追いかけ/のぼせるな/金が無けりゃ何にも/できねえのか」
「平和と自由を履き違え/生きてる/クソガキ共」

これは彼らの極初期のレパートリーであるがAGGRO KNUCKLEと同様、直截な表現で心中の苛立ちや憤怒を吐露しており、「今」の時代、多勢が持つ同時代感覚を喝破している。
いつの時代も特に若者はこうした焦燥を抱えていたものだが「格差社会」云々と囂しい現在ほどこうした叫びにビビッドに共感を覚える時代はなかった。

桜花はサウンド的には初期の英国のOiスキンヘッドバンド、ブリッツやザ・ビジネスそしてスクリュードライバーのようなキャッチーな感触があり、楽曲もライヴでは観客も踊り易い一曲3~5分の長さで、当然ながら会場が盛り上がる事請け合いだ。

彼らは最近は「婆沙羅」という楽曲を演っていて結成以来、テーマとして取り組んできた「日本固有のスキンヘッドミュージック」という命題に於いて新しい局面を切り開きつつあるようだ。

Ouka - Low Life ("Sledge Hammer / Ouka" Split EP)
※桜花が1992年に米国のレーベルからリリースした鐵槌とのスプリット7インチシングルに収録された代表曲"Low Life"(2000年に日本のStraight Up Reordsからリイシュー)。

『桜花より』
※昨年開催された"ICEPICK'12"での桜花の出演バンド紹介であるが彼らが新たなテーマとして取り組んでいる「婆沙羅」について解説している。

出順4番目、団体戦に例えるなら先の中堅・桜花に次ぐ三将となるCRAWLERは初見だったのだが、Oiスキンヘッドバンドの枠で括る事ができない豊かな音楽性、サウンド志向を持ったバンドで、この夜の出演陳の中では異色の存在だった。
個人的には1970年代の英国のパブロックのバンドに通じるキャッチーなメロディーラインが印象的なポップさが新鮮だった。
余談だが英国のパブロック・バンドにはエルヴィス・コステロやニック・ロウが所属していたスティッフ・レーベルの面々や知る人ぞ知るポップ・マエストロ、ザ・モーターズのギタリストだったブラム・チャイコフスキー等は所謂「パワーポップ」の源流の一つに数えられる。
パブロックといえば昨年このイベントに出演した岡山のスキンヘッドバンド、ROUGUE TROOPERのギタリストは時折、ドクター・フィールグッドのウィルコ・ジョンソンを思わせる渋いリフワークを聴かせていた。
日本のスキンヘッドバンド達のライヴは何回か見ているのだが、1970年代後半のパブロック~パンクロックをリアル体験している身としてはこれまで何となく曰く言い難い「懐かしさ」のようなものを感じる局面が多々あったのだが、その謎が解けた気がした。
ずばり個人的に感じた懐かしさの遠因は1980年代の英国のOiスキンヘッドバンドを経由した隔世遺伝か何かは判然としないのだが、彼らのサウンドの根っこに息づいている英国パブロック・バンドの持つタフで大衆的な感覚、肌触りだ。

本題に戻って件のCRAWLERのライヴはちょっと強面の出演面子が居並ぶ中、溌剌としたパフォーマンス&プレイで会場を暖かい雰囲気にし、観客の喝采を浴びていた。
彼らも楽曲中にコーラスワークを効果的にフィーチャーしていたのだが、昨今のメタリックなサウンドが主流のスキンヘッドバンドでは定番の勇壮なコーラスとは違った、キャッチーな「泣き」のコーラスは聴いていて心にジワジワと来るものがあった。
このイベントに於ける全出演バンド中、彼らの存在は絶妙なアクセントになっていたように思う。

"ICEPICK'13" 出演バンド "CRAWLER"
※"ICEPICK'13"のCRAWLERの出演バンド紹介。彼らのレパートリーである『風化サセズ』の音源がアップされている。

"ICEPICK'13" 出演バンド "壬生狼"
※この夜見る事ができなかったのだが大阪を代表するスキンヘッドバンド、壬生狼の"ICEPICK'13" の出演バンド紹介。キャッチーなコーラスが印象的な彼らの代表曲『祖国』のPVがアップされている。

この続きはPART 3に。