久しぶりにブログを更新。

去る9月22日、新大久保EARTHDOMにて開催されたスキンヘッドバンドが集結した"ICEPICK'13"を体験して、個人的に思うところが多々あった素晴らしいイベントだった。

出演バンドは名古屋のAGGRO KNUCKIEの招聘により米国からやって来たBOUND FOR GLORYを含めて全8バンド、16時スタートで22時終演という長丁場のイベントだったがバンドのショウはもとよりバンドのメンバーや関係者と観客との交流の場面等を垣間見るにつけ、非常に内容の濃いものだったと感じた。

入場したのが16時30分過ぎだったので最初に見たのが秋田出身の鎧。
昨年に引き続きいてのイベント出演となるのだが一年振りに見た彼らは相変わらずメタリックで重厚なサウンド、巨漢のフロントマンの野獣のような咆哮を織り交ぜた凄まじいヴォーカリゼーションは聴き物だ。サウンドのテイストは1980年代の英国のNWOBHM以降のヘヴィメタルバンドやモーターヘッドを彷彿とさせるリフとメロディーラインがバランス良く共存した感じで、昨今のメタルやハードコアのバンドに比べるとキャッチーな印象がある。彼らのようなバンドは実はメタルヘッズにも支持されても不思議ではない。個人的には鎧のギタリストはソロパートのプレイがNWOBHM期のモーターヘッドのエディ・クラークを連想させた。この夜出演した他のバンドにも言えるのだが日本のスキンヘッドバンドは皆、かなりハイレベルの演奏力を持っている。
鎧のフロントマンの武骨なMC「日本が好きで何が悪い!」、この一言が他の日本のスキンヘッドバンドにも共通する表現者としてのステイトメントだと思う。

残された呼吸 - 雷矢
※今回のイベントでは実際に見る事は叶わなかったのだが東京のスキンヘッドバンド、雷矢の『残された呼吸』。MIXにはこの夜、トリを務めた鐵槌=SLEDGE HAMMERの名曲『儚き花よ(KAMIKAZE)』が聴ける。

"ICEPICK'13" 出演バンド "雷矢"
※"ICEPICK'13"の雷矢の出演バンド紹介。『続行の歌』のPVがアップされている。

謎の多いバンド「鎧」
※今回のイベントを主宰したICEPICKのホームページに掲載されている秋田の鎧のプロフィール紹介(昨年度の記事)。

"ICEPICK'13" 出演バンド "鎧"
※"ICEPICK'13"の鎧の出演バンド紹介。彼らの音源『限界を超えろ』がアップされている。

続いて登場した名古屋のAGGRO KNUCKLEはこの夜、一番注目していたバンドだ。今回のイベントの主役でもある米国のベテランス・キンヘッドバンド、BOUND FORGLORYを招聘したのが彼らであり、今回の日本ツアーを記念して両バンドによるスプリット作品『Respect & Honor East Meets West』をリリースした。
実は彼らをライヴを見るのはこれが3度目なのだが2年前に名古屋のライヴハウス、TINY7で初めて見た時に感じた鮮烈な印象は忘れられない。
非常に個人的な話になるが今を去る事33年前に僕がまだ10代だった頃、当時京都にあったライヴハウスのサーカス&サーカスで町田町蔵氏率いるパンクバンド、INUのライヴを初体験した時と同じようなインパクトがあった、決して誇張でなく。
それは現在のAGGRO KNUCKLEが、かつてのINUが時代の気分、時代の空気を反映していると直感したからだ。会場も比較的小さなライヴハウスだったサーカス&サーカスで見たINUは観客もまばらで決して盛り上がったライヴだったとは言えないが、饒舌なMCも含めて町田氏の発する気、オーラのようなものがその時代の気分を代弁していたような気がした。
対して2年前のAGGROO KNUCKLEはというとやはり小さな会場で数バンドが出演したイベントで彼らの出順も中盤で、決して良いポジションではなかったと思うのだが、ライヴ中にフロントマンの発する並々ならぬ気迫に心底圧倒された。
敢えて言うがここではライヴに於ける観客動員の多寡は問題ではない。
ただ、両バンドの政治的立場や思想・信条は恐らく対極にある。
乱暴な物言いをすればかつてのINUはリベラル、左翼的な思想・理念に依拠した表現活動をしていたと思うし、AGGRO KNUCKLEは保守、右翼というより愛国的なマインドに則った表現活動をしていると言えよう。
そこで時代の空気という問題であるが1980年代初頭の日本では特に若者は(所謂ノンポリ=ノンポリシーが多数派だったが)、基本的にはリベラルな思想が是とされており、社会的には低成長期に入ったとは言え国民は豊かさを満喫し、若者にとっては満たされた退屈な日常からいかに脱却するかが大きなテーマになっていた。
そんな時代にINUの町田氏は観客に向かって叩き付けるように以下のような歌詞を歌った。
「俺の存在を/頭から打ち消してくれ俺の存在を/頭から否定してくれ」(メシ喰うな!)
「曖昧な欲望しか持てず/曖昧な欲望を持て余し/いつもお前はテレビに釘付け/疲れ果ててもやめられない」(フェイドアウト)
まさに閉塞した時代の声なき声を代弁しているように感じたものだ。

AGGRO KNUCKLEについてはライヴ体験時には歌詞そのものは英語なので聴きとれなかったのだが、フロントマンの短いMCや一挙一動、そしてバッキングメンバーのプレイによる強靭なサウンド、それらが一体となったトータルなバンド・パフォーマンスが何故か時代の気分を体現しているように感じたのだ。
観客が持ち込んだ国旗日の丸をモチーフにしたフラッグを掲げ、MCはシンプルに「闘え!」というシンプルなメッセージを込めたものだったが、初めてINUのライヴを見てから三十余年、様々な意味で日本の社会の構造・情勢も変化し、今やAGGRO KNUCKIEのようなメッセージが自分にとってもリアルに響くような時代になったのか、と感慨深いものがあった。
思えば日本人を取り巻く経済的環境もこの十数年で大きな変化があった。
例えばバブル崩壊後の十年程はまだ一億総中流と言われていて雇用もそれなりに安定し、大・中小企業を問わず高卒・大卒で入社すれば一律、ポストの昇進や昇給が保証されて誰もがそれなりの人生設計も描く事が可能だった。
ところが今世紀に入る頃から、かねてから問題視されていた非正規雇用の派遣社員を企業側がこぞって使役するようになり、彼らはかつては労働人口の大半を占めていた正規雇用の社員のような安定した人生設計が不可能になってきた。
社会・経済だけでなく政治的にも3年前に尖閣諸島で起きた中国漁船と海上保安庁の巡視船との衝突事件を契機に日中、そして竹島を巡って日韓の領土問題が国民的な関心事になっている。
またミサイル発射実験等、北朝鮮の日本に対する度重なる挑発行為も日本人の国防意識その他を大きく変革した。
社会・経済、そして政治的な側面からみても色々な局面で日本、そして日本人に「闘う」ことを否応なく強いられる世相だ、しかも強い意志を以って。
このライヴの時に物販でAGGRO KNUCKIEの1stCD『Unshakable Determimation』を購入したのだが、スクリュードライバーのカバーを含む全6曲、タイトルは元より歌詞やサウンドは「闘う強い意志」をそのままパッケージしたようなビビッドな作品だった。
歌詞についても曖昧なレトリックを弄するようなものではないが、メディアによる情報操作の問題を取り上げた「Manipulator」を筆頭に真摯でストレートなメッセージが込められており、そこには時代を明確に見据えた真のインテリジェンスを感じた。

さて、久しぶりに見るこの夜の彼らのライヴは果たして期待に違わぬハイテンションな素晴らしいものだった。
暗めの照明の中、荘厳なSEに乗ってステージに繰り出したメンバーは気合い十分、約30分のパフォーマンスは演奏のスキル、トータルな表現力等あらゆる面に於いて以前目にした時よりも格段の進歩が感じられた。
途中、ヘヴィメタルバンドのAC/DCを想起させるようなハードブギ調の新曲もあり、キャッチーなアプローチを試みる彼らの新境地を垣間見る事ができた。

余談だが先出の町田氏が率いたパンクバンドは最初に僕が見た1980年秋の時点で徳間ジャパン・レコードから翌春にデビューする事が決まっており、これは件の1stアルバム『メシ喰うな!』のプロデュースを務めた音楽評論家の鳥井賀句氏が彼らに惚れ込んでレコード会社やプロダクション数社と折衝して実現させたものだ。
残念ながらINUはデビュー後3ヶ月足らずで解散してしまうのだが、アルバム・リリース前後には音楽誌から一般誌等、紙媒体を中心にかなりのメディア露出があった。
省みてAGGRO KNUCKLEを初めとしてスキンヘッドバンドは現状、メディア露出する機会が殆どない。
これは以前、某大手出版社の方と歓談した際に耳にしたのだが日本のメディア、特に音楽関係の紙媒体のスタッフは戦後、ずっとリベラル、左翼的なスタンスを取るのが是とされていて「愛国」等保守的なニュアンスを持った文化的事象は無視、あるいは排除されがちだったという事だ。
こうしたメディアのマインドはいかに大多数の国民の政治的な志向性や関心対象が保守的なベクトルに向いても中々それには同調しないだろうという見解だった。
かつてのINUは時代の空気を代弁したバンドだったと思うのだ確かに大勢を占めていたがリベラル、左翼的なマインドを持ったメディア関係者には彼らの主張や存在そのものが歓迎されていたように思う。

いみじくも秋田の鎧がMCで叫んだ「日本が好きで何が悪い!」と言わざるを得ない空気が戦後半世紀余りに渡って日本のメディアでは支配的だった。

AGGRO KNUCKLE - Manipulator
※AGGRO KNUCKLEの1stアルバムに収録されている"Manipulator"他のMIX。

"ICEPICK'13" 出演バンド "AGGRO KNUCKLE"
※"ICEPICK'13"のAGGROKNUCKLEの出演バンド紹介。新曲『28』の音源がアップされている。

以下、後続の出演バンドについては次回以降に書きます。